(3)オーラルフレイル 倉敷平成病院歯科医師 藤田麻里子

藤田麻里子氏

 長寿国である日本において、「健康寿命の延伸」が目標として掲げられています。80歳になっても20本以上自分の歯を残しましょうという「8020運動」をご存じの方は多いのではないでしょうか。

 8020運動は高齢期の口腔(こうくう)保健活動の一つとして“歯の数”を主眼に提唱された概念です。それに続き“口腔の機能”に注目したオーラルフレイルという概念が提唱されています。

 オーラルフレイルは、口に関するささいな衰えを放置したり、適切な対応を行わないままにしたりすることで、口の機能低下、食べる機能の障がい、さらには心身の機能低下までつながる負の連鎖が生じてしまうことに対して警鐘を鳴らした概念です。

 オーラルフレイルの概念は、以下の四つのレベルから構成されています。

 第1レベル「口の健康リテラシーの低下」

 高齢になり、社会とのつながりが減っていくなかで起こりやすく、「口腔の健康に対する自己関心度(口腔リテラシー)の低下」を経て、最終的に歯周病や残存歯数減少のリスクが高まる段階です。

 第2レベル「口のささいなトラブル」

 ささいな口の機能低下(滑舌低下、食べこぼし、わずかのむせなど)に伴う「食」を取り巻く環境悪化の徴候が現れる段階です。ささいな口腔の機能低下により軟らかい食事を好んで食べるなどといった食事選びが習慣化し、さらに老化による機能低下も相乗し口の機能低下が進む段階です。以降の重度化を予防するためにはこのレベルでいかに早く気付くかが重要です。

 第3レベル「口の機能低下」

 「口腔機能低下症」と診断されるステップです。咬合(こうごう)力の低下、舌運動の低下などの複数の機能低下が生じ、口腔機能の低下が顕在化した段階です。このレベルは、口腔機能管理として歯科医療機関での治療が必要となります。

 第4レベル「食べる機能の障がい」

 摂食嚥下(えんげ)機能低下や咀嚼(そしゃく)機能不全から、要介護状態、運動・栄養障害に至る段階で、「摂食嚥下機能障害」として診断がつく段階であり、専門的な知識を有した医師、歯科医師などによる治療が必要となります。

 オーラルフレイルはレベルの移行に伴いフレイル、特に身体的フレイルに対する影響度が増大するため、できるだけ早い段階で気付き、予防していくことが重要となってきます。

 次のでオーラルフレイルの危険性をチェックできます。皆さんに当てはまる項目はあるでしょうか。合計点数が3点以上でオーラルフレイルの危険性があり、4点以上は危険性が高いと言われています。

 「8020運動」や「オーラルフレイル対策」を進める意義は、生涯を通じて自分の口で食べ・話し・笑うことを達成できるよう支援することでもあります。これを達成していく上で欠かすことのできないのが「かかりつけ歯科医」です。

 口腔内の疾患は自覚症状がないまま進行していることもありますので、セルフチェックに当てはまる項目がある方だけでなく、しばらく歯科に行けていないなという方がいらっしゃいましたら、この機会にぜひ歯科受診を検討してみてください。

 お口の環境が整うことで、食事がより楽しくおいしく食べられるようになり、人生の楽しみがまた一つ増えてくると思います。

     ◇

 倉敷平成病院(086―427―1111)。連載は今回で終わりです。

 ふじた・まりこ 岡山大学歯学部歯学科卒業。岡山大学医学部・歯学部附属病院卒後臨床研修センター歯科部門・医員(研修医)、同病院歯科放射線・口腔診断科・医員、同病院歯科総合診断室・助教を経て2020年、倉敷平成病院着任、現在に至る。歯学博士、日本歯科放射線学会専門医。卒後臨床研修指導歯科医。

(2023年02月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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