(2)骨粗鬆症と骨折のはなし 岡山済生会総合病院診療部長(整形外科)土井武

土井武氏

 昔から労力がいることを「骨が折れる」と言いますが、骨折をするととても苦労します。骨折の経験がある方はご存じのことと思いますが、まずは痛みで困ります。手術となると一大事で、幸いギプスで治るといわれてもギプス自体生活に不自由がでます。骨折が関節に近いと骨が治っても可動域制限など機能障害を生じることもあり、後遺症となることもあります。

 最近の日本では高齢者の骨折の機会が増えてきています。高齢者に多い骨折といえば脊椎圧迫骨折、肩関節の骨折(上腕骨近位端骨折)、股関節の骨折(大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)骨折や転子部(てんしぶ)骨折)、手関節の骨折(橈骨(とうこつ)遠位端骨折)があり、いずれも転倒して手をついたとか、しりもちをついたとか軽微な力で生じており、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が基盤にあるといわれています。

 骨を顕微鏡でのぞいてみると、骨梁(こつりょう)という梁(はり)でつながった網目状の立体構造が見えます。梁が少なく細くなった状態を骨密度の減少と言います。骨密度は超音波を利用して測るものやエックス線を利用して測るものがあります。骨密度は年齢が増加するに従い、減少していきます。半年から1年ごとに検査して以前のデータと比べることで骨粗鬆症の程度、治療の効果判定に用いられます。

 人間の体は少しずつ新しいものが作られては、古くなったものが壊されていくという代謝によってバランスが維持されています。骨も細胞レベルでは同じように壊されては作られ、作られては壊されを繰り返して骨を維持しています。

 骨粗鬆症では代謝の低回転型(骨が作られないタイプ)と高回転型(骨が壊されるタイプ)があります。これらは血液検査で骨代謝マーカー、骨吸収マーカーなどを測定してそれぞれにあった治療薬を選択します。

 現在いろいろな薬や注射が開発され、処方できるようになってきました。近年整形外科では一度骨折を起こした人が次の骨折を起こさないよう取り組む施設が増えてきています。それは骨折を重ねるごとに寝たきりになる可能性が高くなっていくことが分かっているためです。元気に自立した生活を送るために骨粗鬆症の治療が必要となります。

 70歳を過ぎてから骨折の経験がある方や、最近身長が2~3センチ短くなった方は骨粗鬆症の可能性があります。骨粗鬆症自体には痛いとか、かゆいといった症状はありません。そのため何かきっかけがないと分からない病気なのです。

 かかりつけの先生に相談して検査のできる病院へ紹介してもらう方法が一番よいと思います。骨粗鬆症治療を総合病院と開業医で連携して継続していこうとする動きも始まっています。高齢者の骨折は痛くなくなったらおしまいではなく、次々に骨折を起こす負の連鎖を起こさないような治療を行わなくてはいけません。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 どい・たけし 岡山大学医学部卒業。同大学病院、福山市民病院、岡山赤十字病院などを経て2022年4月から岡山済生会総合病院診療部長(整形外科)。医学博士。整形外科の中でも外傷・骨折を専門としている。日本整形外科学会専門医、日本骨折治療学会評議員。

(2023年03月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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