第10回「呼吸器」 川崎医科大学呼吸器内科学 小賀徹教授

小賀徹教授

 酸素を体内に取り入れ、二酸化炭素を排出する呼吸は生物にとって、食べることと同等に重要な営みだ。われわれは24時間、途切れることなく呼吸し続けなければ生命を保つことはできない。その役割を担っているのが呼吸器で、肺や気管などで構成されている。空気が絶えず流入するため外界の影響を受けやすく、その疾患は多種多様で命に関わることも少なくない。川崎学園特別講義で本年度最後となる第10回のテーマは「呼吸器」。川崎医科大学呼吸器内科学の小賀徹教授に解説してもらった。

 呼吸器は、空気が出入りする鼻や口に始まって気管から肺へと続きます。肺の中では気管支や細気管支、ガス交換の場である肺胞などがあります。

 主要な役割は、空気を吸ったり吐いたりする「換気」と、酸素を血液中に取り込んで組織内での代謝の結果不要になった二酸化炭素を排出する「ガス交換」にあります。

 【換気】

 酸素は生命維持に欠かせませんが、人間は自前で酸素を作れません。だから呼吸によって外界から取り入れています。呼吸をするとき、肺は自分の力で膨らんだりしぼんだりはできません。肋骨(ろっこつ)の間にある肋間筋(ろっかんきん)と横隔膜が動いて、肺が納まっている胸郭の容積と内圧を変化させ、肺の動きをコントロールします。胸郭の容積が大きくなると肺も膨らんで息を吸い込み、容積が小さくなると肺はしぼんで息を吐き出します。

 【ガス交換】

 鼻や口から入ってきた空気は気管に入ります。気管は左右に分かれて気管支となり、肺の中ではさらに枝分かれしてとても細くなります。その先にあるのが、顕微鏡でなければ見えないくらい小さな肺胞です。

 肺胞では酸素と二酸化炭素のガス交換が行われます。肺胞の中には酸素がたくさんあり、肺胞の周囲を取り巻いている毛細血管の血液中には二酸化炭素が多く含まれています。肺胞の壁はとても薄いので、酸素や二酸化炭素は行き来できます。濃度の高い方から低い方へと流れる「拡散」によって、酸素は肺胞から血液中に、血液中の二酸化炭素は肺胞の中へと移動します。酸素は血液中のヘモグロビンと結びついて鮮やかな赤色になり、動脈を流れて全身の細胞に送られます。

 肺の全ての肺胞を取り出して広げると、だいたいテニスコート1面分くらいの広さになるといわれています。それくらい広いので、われわれは酸素をいっぱい取り込めるのです。

 肺は空気を取り入れることで外界と直接つながっています。空気中には細菌やウイルス、タバコの煙や粉じんなどの大気汚染物質が含まれ、肺はさまざまな影響を受けやすくなります。

 このため呼吸器の疾患は非常に多様で、しかも命に直結する病気も少なくないのが特徴です。がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺炎や肺結核、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症、喘息(ぜんそく)などのアレルギー性肺疾患、気胸や胸膜炎といった胸膜疾患などたくさんあります。

 呼吸器内科を受診する患者さんの症状で最も多いのは咳(せき)と呼吸困難、息切れです。ただ、咳が出るからといって全てが呼吸器疾患由来だとは限りません。意外に思うかもしれませんが、胃食道逆流症や慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、睡眠時無呼吸などが原因の場合もあり、こうした疾患への対応が必要になります。診療には高い専門性はもちろんですが、幅広い視点が欠かせません。

 【肺炎】

 肺炎は、肺に細菌やウイルスなどが感染して急性の炎症を起こす病気で、日本人の死因の5位、誤嚥性(ごえんせい)肺炎は6位に位置付けられています。

 肺炎はいろんなことで起きます。新型コロナウイルスやインフルエンザ、風邪をこじらせたり、高齢になって体力が衰えた、糖尿病や心臓病などで免疫力が弱まったときなどに肺炎を発症しやすくなります。重症度を測るのに、コロナ禍で知られるようになった酸素飽和度があります。これが90%以下になると呼吸不全です。いろんな臓器に支障を来しうる状態で、入院治療が必要となります。肺炎は起きてしまったら抗菌薬などでの治療しかありませんので、ワクチンの接種など予防がとても大事です。

 【喘息】

 喘息は、空気の通り道である気管や気管支などに何らかの原因で炎症が起きて狭くなり、息苦しくなる病気です。ちょっとした刺激でも過敏に反応して気道はさらに狭くなり、発作が起きます。激しい咳に加えて喉がゼイゼイと鳴る喘鳴(ぜんめい)が生じ、呼吸困難になります。多くはアレルギーが原因とされますが、非アレルギー性もあります。

 ただアレルギーと言っても、食物アレルギーなどとは違って非特異的な反応です。例えば、そばアレルギーならば、そばだけに反応しますが、喘息の場合はダニやハウスダスト、花粉、食べ物などいろんなものに反応するのです。

 治療は炎症を抑えるための吸入ステロイド薬が基本となります。最近は生物学的製剤が開発され、難治性の患者さんで亡くなるケースは減っています。

 【睡眠時無呼吸症候群】

 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は睡眠中に何度も呼吸が止まる病気です。眠りの質が悪くなるだけでなく、高血圧や心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高まるとされています。肥満や糖尿病、COPDや喘息との関連も指摘されています。

 有病率は、京都大学が滋賀県長浜市と連携して取り組んでいる大規模な疫学研究によると、治療対象となる中等症以上は住民の12%、軽症を含めると59%もありました。COPDや喘息の有病率は10%未満なので、SASの患者さんはとても多いのです。ただ、いびき以外の症状に乏しいため患者さん本人や医療関係者も見過ごしがちで、治療に結びついていないのが問題です。

 SASは生活習慣の改善やCPAP(シーパップ)(持続陽圧呼吸療法)などの治療で改善されることが分かっています。早く診断につなげて、適切な治療を受けてほしいと思います。

(2023年03月20日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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