【新学長に聞く】川崎医科大学 砂田芳秀学長 臨床実習に力 対応能力育成

砂田芳秀学長

授業や臨床実習に取り組む医学生たち(川崎学園提供)

授業や臨床実習に取り組む医学生たち(川崎学園提供)

 川崎医科大学の新学長に、神経内科学教授で副学長だった砂田芳秀氏が就任した。今、医学教育は世界基準に基づく評価制度が導入され、改革の波にさらされている。臨床での対応能力が重視され、教育の成果が問われる中、どのような運営で次代を担う医療人を育てていくのか。今後のかじ取りについて、砂田学長の考えを聞いた。

■世界基準で評価 

 ―医科大学などでの医学教育は、「日本医学教育評価機構」(JACME)による第三者評価が行われるようになりました。日本の医科大学は大きな改革の最中にあります。

 川崎医科大学は、研究と診療、教育と三つある大学機能の中で、これまで医学教育に最も力を入れてきました。「良医の育成」という理念は今後も変わることはありません。

 大学における医学教育は今や世界基準で評価される時代です。何を教えるかよりも何ができるようになるのか、学習の成果が問われています。従来、日本の医学教育は講義が中心で、専門科目ごとの知識や理論の教育に偏りすぎるきらいがあり、その結果、最も重視すべき基本的な診療能力が十分に身に付かない懸念がありました。

 この点、本学は従来から科目の枠を超えた統合型の教育を重視し、実際の患者さんから学ぶため診療チームの一員として活動する参加型の臨床実習に力を入れています。自ら学び、考え、対応できる能力を育てたいと考えています。

 臨床実習を行うに当たっては、医科大学付属病院や川崎医科大学総合医療センターと連携を密にしています。9月に開院予定の川崎医科大学高齢者医療センターは、老年症候群や認知症、在宅療養支援に専門的に対応する病院です。他の施設では経験できない実習が可能になります。

■教員改革 

 ―医学教育の改革に伴い、教える側の意識改革や教育面での資質向上が求められます。

 医科大学の教員は自らの研究や臨床については専門家ですが、その多くが教育理論をきちんと学んだうえで教員になっているわけではありません。私自身もそうでした。まずは教員が基本的な教育理論を身に付け、到達目標などの共通認識を持って教育に当たらなければなりません。

 教員の取り組みを評価する仕組みも必要です。研究や診療面での実績や貢献度は比較的分かりやすいのですが、教育面は見えにくい部分があります。そこで本学は教育実績の評価基準を独自に作成しました。貢献度の高い教員には、それに見合う評価ができるような仕組みにしたいと思います。

■特定診療科専攻枠 

 ―2022年度入試では総合診療や救急などの特定診療科専攻枠を設け、学生を受け入れました。

 特定診療科専攻枠は「総合診療科」と「救急科」「麻酔・集中治療科」で4人が入学しました。この3診療科とも病院になくてはならない重要な部署です。手術ができず、救急患者も受け入れられないとなると大学病院の機能は果たせません。また、総合診療の知識と経験は、これからの地域医療を担ううえでは欠かせないものになるでしょう。

 特定診療科専攻枠の学生のカリキュラムは他の学生と同じですが、関係各科の先生方による小グループの指導体制を整えるなど、1年生の時から継続的に支援していきます。

■国家試験にも変化を 

 ―今の学生が置かれた状況をどう捉えていますか。

 医学の進歩はとても急速です。年々情報量が増え、学生が知識の洪水に溺れてしまう、そんな懸念もあります。教える内容を本当に大切な、現場での応用が利くようなものに厳選していく必要があるでしょう。

 医学教育が変わる中、医師の国家試験にも変化が必要だと思っています。国家試験は本来、資格試験なのですが、10%弱は必ず不合格となる競争試験になっています。そのため、大量の知識を詰め込む受験勉強に多くの時間を割かざるを得ません。臨床実習をしながら国家試験に備えなければならない学生の苦労とストレスは大きく、そろそろ限界が近づいています。臨床実習を通して身に付けた知識や技能が国家試験で試されるような、安心して実習に集中できるような方向に変わる必要があるでしょう。

 そういうストレスのある学生生活を送らざるを得ない中で、精神的な問題を抱えている学生も間違いなくいます。本学としては、そういう学生が気兼ねなく相談できるようなサポート体制についても充実させたいと思っています。

 すなだ・よしひで 広島県立三原高校、岡山大学医学部卒業。国立病院医療センター(東京)、東京大学医学部脳研神経内科、米国アイオワ大医学部ハワード・ヒューズ医学研究所留学、帝京大学医学部神経内科学講師を経て、1999年から川崎医科大学神経内科学教授。2009年から同大副学長、23年4月に学長就任。

(2023年04月20日 更新)

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