メリット大きい内視鏡手術 子どもの成長や将来考慮 小児外科 曹英樹教授

曹英樹教授

小児の内視鏡手術に取り組む曹英樹教授(左)=川崎学園提供

小児の内視鏡手術に使う直径3ミリの器具類(川崎学園提供)

 小児外科は、主に手術などを必要とする子どもの疾患を扱っている。鼠径(そけい)ヘルニアや虫垂炎など一般的な病気のみならず、数千人、数万人に1人という希少な、しかも命に関わる病気にも向き合っている。そんな病気を生まれ持ち、苦しい治療に耐えなければならない赤ちゃんの力になりたいと、川崎医科大学付属病院の曹英樹教授は小児外科を志したという。現状と課題を聞いた。

  ―小児外科が扱うのは、どのような疾患ですか。

 虫垂炎や、おなかの中にあるはずの腸などがはみ出して脚の付け根の辺りが膨らむ鼠径ヘルニアなどが多いですね。そのほかにも、数千人に1人と患者数は少ないのですが、生まれつきの食道閉鎖症や横隔膜ヘルニア、鎖肛(直腸肛門奇形)など深刻な病気も多数あります。

 小児外科は、そういった難しい疾患から小さな命を救おうと、国内では1960年代あたりから一部の先進的な施設に設けられ、当科は97年に開設しました。

  ―小児外科を開設している医療機関は多くはありません。岡山県内でも限られています。それはなぜでしょう。

 食道閉鎖症や横隔膜ヘルニアなどは、どこの医療施設でも対応できる疾患ではありません。手術には、成人とは違った特殊な技術と知識が備わった医師が必要ですし、小児の全身麻酔ができる施設でなければなりません。生まれつきの疾患を扱いますので産婦人科や新生児科との連携も欠かせません。また、患者の数がとても少ないので、その意味でも施設は限られるのです。

  ―小児外科の特殊性とは何でしょうか。

 小児はただ体が小さいだけではなく、臓器が未熟なため手術の際には細心の注意が求められます。新生児や未熟児では、ピンセットでちょっとつまむだけで腸に穴があいたり、少し引っ張っただけで筋肉が裂けたりすることがあります。組織が脆弱(ぜいじゃく)な一方で、再生能力は高く治癒能力は優れていますので、きちんと管理をすればやりやすい面もあります。

 加えて、子どもは成長過程にあるということです。手術による傷跡は成長とともに大きくなります。場合によっては、おなかの右から左まで真横に大きな傷が残ります。昔は命を救うためだから仕方がないと言われていましたが、傷跡は一生ついて回ります。心の傷になりかねません。

 医療は進歩しました。手術で目の前の疾患を治すだけではなく、子どものその後の人生を考慮した治療を目指したいと思っています。だから、なるべく傷跡を残さないよう、後遺症が生じないように内視鏡による手術に取り組んでいます。

  ―小児の内視鏡手術について教えてください。

 内視鏡手術は、開胸や開腹手術と比べ、体力の弱い小児の負担軽減が図れる低侵襲手術です。おなかや胸に小さな穴を数カ所開け、通常、大人に使うよりは細い直径3ミリ程度の鉗子(かんし)や小型カメラなどを差し込んで治療します。術後の痛みが少なく回復は早く、傷跡は目立ちません。

 小児のうちに胸やおなかの筋肉を大きく切ってしまうと傷跡が残るだけでなく、成長とともに体が傾いたり、片腕が十分に上がらなくなるなど均衡がとれなくなることがあります。組織の損傷を最小限に抑えられれば、他の子どもと同様の成長が見込め、この点は内視鏡手術の大きなメリットでしょう。当院では手術の半数以上は鏡視下手術です。

  ―鏡視下手術では細長い鉗子を使うなど、大人であっても特殊な技術が必要になります。小児の場合はいかがですか。

 やはり体がとても小さいことが、多くの制限をもたらします。大人の場合、おなかに穴を4~5カ所開けて鉗子などの器具を挿入するのは普通ですが、小児では多くの器具を入れると器具同士がぶつかり合って邪魔になるので、なるべく少なくします。その分、臓器を糸で固定していったん脇に寄せるとか、いろんな工夫をしています。

 さらに可動域が狭い中、組織はとても脆弱ですので縫合や吻合(ふんごう)をするにしても慎重な作業となります。一つ縫っては一息ついて、といった状況なので、執刀医はとても神経を使うのですが、やはり子どもの成長や将来を考えれば内視鏡手術の方が良いと思います。

 小児外科においてこそ内視鏡手術のメリットが最大限生かされると、私はそう信じてこれまで取り組んできました。

  ―食道閉鎖症など生まれつきの疾患の場合、術後も合併症や後遺症などに対して長期にわたるフォローが必要ですね。

 子どもは何の自覚も責任もないところで病気になり、非常に苦しい治療を受けています。治療はうまくいくときもあれば、いかないときもあります。うまくいったからといって、それで終わりではなく、子どもたちは一生その病気と向き合っていかなければなりません。病気の事実をいつ、どのように伝えるのか。「自分」というものが確立していく思春期を迎えたとき、どう支えていくのか。保護者も含めたトータルな取り組みが必要となります。これは当院にとっても大きな課題です。

 そう・ひでき 大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院、大阪急性期・総合医療センター、市立東大阪医療センター外科・小児外科、大阪大学大学院小児成育外科、大阪母子医療センターなどを経て2020年4月から川崎医科大学小児外科学主任教授・同付属病院小児外科部長。日本外科学会指導医・専門医、日本小児外科学会指導医・専門医・評議員、小児がん認定外科医・がん治療認定医、日本周産期・新生児医学会認定外科医など。

(2023年06月19日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

タグ

関連病院

PAGE TOP