(2)非結核性抗酸菌症 倉敷中央病院呼吸器内科部長 伊藤明広

伊藤明広氏

 ■非結核性抗酸菌症とは?

 非結核性抗酸菌(NTM)は、結核菌以外の抗酸菌の総称で約200種類知られており、自宅の庭などの土壌・浴室やシャワーヘッドなどの環境中に生息しており、ヒトからヒトに感染することはありません。

 NTMが肺に感染し、病気を起こした状態を肺NTM症と呼びます。近年、肺NTM症患者さんは増加傾向で、2007年から14年までの7年間で約2・6倍に増加したと報告されており、患者数は菌が陽性になった結核患者さんよりも多いとされています。

 肺NTM症の中で最も多い原因菌は、Mycobacterium avium-intracellulare complex(MAC)菌で80~90%を占めており、次いでM.kansasii菌、M.abscessus菌といわれています。

 ■肺NTM症の診断と治療

 肺NTM症はほとんど無症状の場合から、せき・たん・血たん・息切れなどの症状がある場合までさまざまです。胸部単純レントゲンやCTでは、肺に粒状影(粒の影)・結節影(粒より少し大きめの塊)・空洞影(肺の中の穴)・気管支拡張を認めることが特徴とされています。

 NTMは環境常在菌のため、たんから2回以上同じ菌が検出された場合に肺NTM症の診断となります。たんが出ない患者さんやたんから菌が検出されない患者さんには、診断のために気管支鏡検査というカメラの検査を行うことがあります。

 肺MAC症の治療を図1に示します。クラリスロマイシン(CAM)を中心とした多剤併用療法が基本です。この中でCAMがMAC菌に対して最も有効とされており、治療成功のためにはMAC菌に対してCAMを耐性化させないことが重要です。CAM単独治療により耐性化しやすいため、肺MAC症の患者さんやその疑いの患者さんではCAM単独治療は避ける必要があります。

 21年5月からアリケイス(R)吸入液という抗生剤の吸入が日本でも使用可能になりました。アリケイス(R)吸入液は、標準治療を行っても6カ月以上排菌が続く患者さんがよい適応であり、当院でもそのような患者さんには治療を推奨しています。

 肺MAC症は薬物療法のみでの完治は困難であり、患者さんの病状により手術を行うこともあります。

 ■肺MAC症治療の問題点

 肺MAC症治療の問題点も図1に示しています。問題解決のため、治療効果が高くより短期間で治療が完遂できる薬剤の開発が求められていますが、現在ある治療薬をしっかりと使いこなして標準治療を行うための啓発も重要と考えます。

 ■肺NTM症における当院の取り組み

 当院では、15年10月から肺MAC症と新たに診断された患者さんを前向きに調査する臨床研究を行っており、現在も継続中です。ご協力いただいた患者さんの治療やその成績を図2に示します。また、疾患啓発と地域の診療レベルの向上を目指し、22年9月14日より肺NTM症専門外来を開設し、毎週火曜日の午後に診療を行っております。

 肺NTM症は治療期間が長く、無治療の場合も治療開始のタイミングを逃さないことが重要で、長く付き合っていかなくてはならない病気です。病気のことで何か困りごとがありましたら、主治医の先生を通じていつでも当院の専門外来を受診していただければと思います。

     ◇

 倉敷中央病院(086―422―0210)

 いとう・あきひろ 三重大学医学部卒業。西神戸医療センターでの初期研修、呼吸器科専攻医を経て、2009年4月より倉敷中央病院に勤務。専門は呼吸器疾患全般(特に呼吸器感染症)。日本呼吸器学会専門医・指導医、日本感染症学会専門医・指導医、日本結核病学会結核・抗酸菌症指導医。

(2023年06月19日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

タグ

関連病院

PAGE TOP