膝関節 自然な動き再現 川崎医科大学付属病院整形外科・難波良文教授

難波良文教授

 加齢などによって膝関節の軟骨がすり減って痛みが出る「変形性膝関節症」。ひどくなると人工関節に置き換える手術が必要な場合がある。ただ、一部の患者からは術後に「痛みや違和感がある」「歩きにくい」などの不満が出ていた。少数の声にも向き合って患者満足度を高めようと、川崎医科大学付属病院(倉敷市松島)整形外科の難波良文教授は従来の手術の考え方を根本から見直し、患者本来の脚の形を大切にする新たな手術法「キネマティック・アライメント」(KA)に取り組んでいる。

 高齢になると多くの人が膝に悩みを抱えている。国内で行われた大規模な疫学研究によると、変形性膝関節症は40歳以上の女性の約6割、男性で約4割にみられる。介護が必要になる大きな要因になっている。

 症状が軽いうちは薬物療法や運動療法が行われるが、痛みでつえや手すりがないと歩けなくなるほど重症化した場合には手術が検討される。その選択肢の一つが人工膝関節全置換術(TKA)となる。

 TKAは、膝関節をつくる大腿骨(だいたいこつ)、脛骨(けいこつ)の傷んだ部分と軟骨を切除し、金属(骨部分)とポリエチレン(軟骨部分)でつくられた人工関節をはめ込む。

 従来のTKAは欧米の考え方に沿って、大腿骨と脛骨の真ん中を通る線が正面から見たときに真っすぐになるよう骨を切って人工関節をはめ込んでいた。

 こうした従来法について、難波教授は国内での研究報告をもとに「TKAを受けた患者さんの2割程度は手術結果に満足していない」と指摘する。

 そもそも脚の形はO脚(内反膝)やX脚(外反膝)など人それぞれだ。とりわけアジア人ではO脚傾向が強くなる。「無理やり真っすぐに矯正するのではなく、その人が心地よいと感じる本来の形に近づけることができれば、患者さんの満足度は高まるはず」と難波教授は強調する。

 KAは2006年から米国で始まった。従来の考え方とは異なり、変形前の膝関節の形態やバランスを目指すので、その人にとって自然な動きの再現が期待できるという。

 しかし、手術を受けるほどの患者の膝関節はひどくすり減っている。その状態から元の形が分かるのだろうか。

 難波教授は「ひどい症例であっても変形しているのは下側の脛骨。大腿骨を基準にバランスをとれば本来の形に戻る」と説明する。その結果がO脚やX脚であっても、膝を伸ばしたときには患者にとって安定する形になるという。

 川崎医科大学付属病院で症例を比較したところ、術後7日目で歩行器歩行が自立できたのは従来式が23%でKAが88%、術後2週間で階段歩行が安定したのは従来式57%に対してKAは88%と大きな差が出た。

 治療効果は高いKAだが国内の実施施設はまだ少なく「今は過渡期」にあると難波教授は言う。「その人本来の形であっても極端な内反(O脚)は長期的に問題が出る可能性が指摘されている。人工関節の改良も必要だろう。さらにデータを集積して改善に努め、新たな治療法を確立したい」と話している。

 なんば・よしふみ 岡山大学医学部卒、同大学院修了。岡山済生会総合病院、岡山労災病院などを経て2010年から川崎医科大学付属病院、15年から現職。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本リウマチ学会専門医・指導医など。

(2023年08月07日 更新)

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