(3)顔に見られる黒いできもの 岡山済生会総合病院皮膚科診療部長 荒川謙三

基底細胞がん(荒川診療部長提供)

悪性黒子型黒色腫(左)と悪性黒子(荒川診療部長提供)

脂漏性角化症(荒川診療部長提供)

 今回は一つの病気についてではなく、顔に見られる黒い病変について良性から皮膚がんまでいろいろ鑑別しながら説明したいと思います。

基底細胞がん

 50歳頃から見られる皮膚がんの一つです。体のどこにでも見られますが80%は顔に生じ、それも目の周囲や鼻に多くできます。他のがんに比べると進行は遅く、数カ月から数年で徐々に大きくなり、また深く入っていきます。当院では年間30名ほどを治療していますが、受診時の大きさは平均約9ミリです。

 当初は黒い点ですので後で述べる“ほくろ”との区別は自分ではわからないでしょう。少し大きくなり、中心から出血するようになって受診してくることが多いです。これは小さな潰瘍ができているためで、このがんの特徴です。小さな時には目で見て診断できない場合でも、最近ではダーモスコピーという比較的手軽な器具で診ることで診断ができます。ある程度大きくなった典型的病変は、辺縁が堤防状に盛り上がり硬く触れ、中央に潰瘍が見られます。転移をすることはなく摘出すれば完全に治癒できますが、顔に多くみられますので整容的な問題があり手術方法には気を使います。

悪性黒色腫

 このがんは、日本人の場合の半数は手足にできますが、紫外線が関与するタイプの悪性黒色腫は顔に生じます。当初は“しみ”(老人性色素斑)との鑑別が難しい例もありますが、境界、形が不規則で、黒い部分や褐色の部など濃淡があります。まだ盛り上がりはありません。この時期はまだ本当のがんになる前の状態で「悪性黒子」と言われます。この中に黒い、または赤い結節(塊)が出てくると「悪性黒色腫」に進んでしまったと考えられます。この二つの病気は、治療法そして予後で天と地ほどの差がありますので、早く診断することが重要です。境界が明瞭な“しみ”と前がん状態である「悪性黒子」を鑑別し、また悪性黒色腫になってしまう前の状態で治療したいものです。

脂漏性角化症(老人性いぼ)

 皮膚の老化の一つであり、早い人では30歳代から見られます。色は淡褐色から黒色までさまざまで、形もわずかに盛り上がっているものからボタンを皮膚に張り付けたようなもの、ザラザラとサボテンのようなものまでさまざまです。ごく一般的に見られ、70歳代で体のどこにもないという人はいないでしょう。

 しかし、前回紹介した有棘(ゆうきょく)細胞がんや前記の二つの皮膚がんなどを心配され受診、紹介される場合がしばしばあります。慣れた目で見れば診断は可能ですが、必要な場合にはその一部を採って組織学的に確認することもあります。治療法は、大きな場合には摘出をしますが、大半は液体窒素による冷凍治療が最も簡便で治療後もきれいになります。

母斑細胞母斑、黒子(ほくろ)

 母斑細胞母斑は“黒あざ”と呼ばれるもので、その小さなものを黒子と言います。乳児期、小児期から見られる2〜3ミリの黒色斑または小さな結節(塊、ぶつ)です。皆さん不思議に思うかもしれませんが、成長とともに大きくなったり盛り上がってきたり色も変化します。さらに黒子は30歳代で平均3個新しくできるとの報告もあります。そのため、がんを心配して受診される方が多く見られますが、この後天性の黒子を黒い色の皮膚がんと鑑別することが重要です。

 その他、青色母斑、太田母斑、肝斑など、褐色から黒色の病変はいろいろあります。心配で受診される方の9割以上は良性または治療の必要のない疾患です。心配より受診!!

(2013年01月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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