(4)僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術について 津山中央病院心臓血管外科医長 剱持礼子

剱持礼子氏

 心臓弁膜症のひとつである「僧帽弁閉鎖不全症」の病態と治療についてお話します。

 僧帽弁は左心房と左心室との間にある弁です。心臓が収縮した時に僧帽弁を正面から見ると、正常では前尖(ぜんせん)と後尖(こうせん)の二枚の弁が隙間なく合わさりスマイルマークのような形をしています=図1a。そして、弁尖の先は心臓の左心室乳頭筋と数多くの腱索(けんさく)によりつながっており、まるでパラシュートのようです。

 左心室の収縮と同時に前尖と後尖が腱索に引っ張られて閉じ、大動脈から血液が全身に送られます=図1b。僧帽弁閉鎖不全症では弁が閉じる時に前尖と後尖の間に隙間ができ、血液が左心房を介して肺の方向へ逆流します=図1c。このため、肺うっ血が起こり呼吸困難を来し、逆流した血液量分は全身に送れず不足して心不全を発症します。

 逆流の主な原因は、(1)弁が変性(粘液様変性)して延びてしまったり(2)腱索が切れてしまったり(3)弁の骨格(弁輪)が拡大することによります=図1c。よって、僧帽弁形成術では主にこの3点に介入します。(1)に対しては、余剰な弁尖を切除し細い糸で縫い合わせます=図2a。(2)に対しては、細いゴアテックス糸を用いた人工腱索で再建します=図2b。(3)に対しては、人工弁輪(リング)を縫い付けて適切な弁輪の大きさに復します=図2c。この三つの手技を組み合わせることで多くの僧帽弁閉鎖不全症を治療することができます。

 他の手術として人工弁置換術があります。自身の弁を人工弁に取り替える手術で、機械弁と生体弁から選択しますが、前者は血栓塞栓症の、後者は10~20年で弁不全に陥るなどのデメリットもあります。形成術は自己弁を温存する手術で人工弁のデメリットもなく、再手術率は10年間で10%前後と良好な長期成績が期待できます。

 近年、症状のない重症僧帽弁閉鎖不全症に対しても早期手術で予後を改善することが示されています。欧米のガイドラインでは確実な形成の成功率が95%以上である施設で行うこととされています。当科では過去5年間、弁形成の適応がある僧帽弁閉鎖不全症手術において100%の成功率です。

 ここ数年の間に動悸(どうき)や息切れがひどくなった、極端に疲れやすくなった。そう思われる方は、一度当院へご相談ください。年齢ではなく、心臓弁膜症かもしれません。心臓弁膜症は聴診器一つで発見でき、適切な時期に手術を行えば必ず元気になる病気です。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 けんもち・れいこ 筑波大学医学専門学群医学類卒。岡山大学病院で研修後、津山中央病院心臓血管外科へ赴任。2020年に長崎大学病院心臓血管外科へ1年間の国内留学後、2021年に帰院。外科専門医、心臓血管外科専門医、循環器専門医、腹部ステントグラフト実施医・指導医、胸部ステントグラフト実施医、下肢静脈瘤血管内焼灼術実施医・指導医。

(2023年12月19日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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