(5)抗凝固薬に代わる脳梗塞予防のための新しい治療法 心臓病センター榊原病院循環器内科医長 森川喬生

森川喬生氏

 脳梗塞と心臓の関係をご存知でしょうか? 一見無関係に見えますが、脳の血管が詰まる疾患である脳梗塞のうち、心臓が原因で起きる「心原性脳梗塞」があります。「心原性脳梗塞」は心臓の中でできた血栓が脳に飛んでいって発症する疾患です。脳梗塞の中でも一番重篤となることが知られており、小渕恵三元総理大臣の命を奪った怖い病気です。今回は、この「心原性脳梗塞」を予防する最新の治療法についてお話しさせていただきます。

 まず、なぜ心臓の中に血栓ができるのでしょうか? それには「心房細動」という不整脈が関係しています。「心房細動」は脈が不規則に乱れる不整脈で、心臓内部の血液が澱(よど)み血栓を形成します。予防方法は、血栓ができないようにワーファリンやDOACといった抗凝固薬(俗にいう血をサラサラにする薬)の内服が一般的です。実際こうしたお薬の普及により、多くの方の脳梗塞を未然に予防することができています。

 しかし、お薬には必ず副作用が存在します。抗凝固薬の副作用は血が止まりにくくなることです。その結果、脳出血や胃潰瘍、転倒や事故の際により重篤になります。また、悪性腫瘍の手術から歯科での抜歯に至るまで、外科手術が必要な場合も術後の止血の観点から抗凝固薬の内服が問題となります。

 こうした抗凝固薬のデメリットを抑えつつ脳梗塞を予防する治療として、カテーテルを用いた左心耳閉鎖術が2019年から日本に導入されました。この治療法はWATCHMAN(ウォッチマン)と呼ばれるデバイス=図1=を、心臓内で一番血栓ができやすい左心耳という場所にカテーテルを用いて植えこむことで、血栓を出て来なくしてしまうという治療法です=図2。治療後の検査で問題がなければ生涯にわたり抗凝固薬を中止することができます。

 治療は全身麻酔下で行いますが、足の付け根の血管から4ミリほどの太さのカテーテルを挿入し、30分程度で治療が可能となっております。われわれ医師は治療手段を選択する際、その治療に科学的な裏付け(エビデンス)があるかを重要視します。この点においてWATCHMANは、抗凝固薬と同等に脳梗塞を予防し、抗凝固薬と比較して出血が少ないというエビデンスがある、非常に信頼のおける治療となっており、アメリカでは毎年8万人の方がこの治療を受けられています。

 日本における適応は「出血リスクの高い心房細動患者」が対象となっており全ての方が適応になるわけではありませんが、現在、抗凝固薬を内服中で薬を止めたいという方がおられましたら一度ご相談ください。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 もりかわ・たかお 香川大学医学部卒。宇治徳洲会病院、心臓病センター榊原病院、米国のシーダース・サイナイ・メディカルセンターを経て2021年より現職。日本循環器学会専門医、日本心血管カテーテル治療学会専門医。WATCHMANのプロクター資格を持ち、新規施設への導入支援を行っている。

(2024年01月15日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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