(6)胸と背中の激痛 命を左右する急性大動脈解離 心臓病センター榊原病院心臓血管外科部長 岸本諭

岸本諭氏

 大動脈解離は命を左右する病気です。大動脈は心臓から拍出された血液を全身に送るための最も太い血管で、三層構造をしています。血液の流れる内側から内膜、中膜、外膜という三膜で構成されます。

 大動脈解離とは、この内膜に突然亀裂が生じ、この亀裂を通って侵入してきた血液により中膜が破壊され、内膜と外膜が引き剥がされる状態です=図1。本来の血液の通り道を真腔(しんくう)、亀裂を通って入り込んだ血液によりできた通り道を偽腔(ぎくう)と言い、偽腔は血流により広がっていきます。偽腔の外側は外膜しかないため、外膜が破裂すると大出血し致命的になります。また偽腔が大きくなると、真腔を圧迫して臓器の血流を障害することがあります。

 大動脈解離の多くは突然の強い胸背部痛で発症し、血流障害を合併すると脳梗塞や心筋梗塞を伴うこともあります。心臓から起始し頭部や上肢への血管を分岐する上行大動脈に解離が及ぶ場合をA型、それよりも末梢はB型と分類し=図2、A型解離は破裂のリスクが非常に高いため緊急手術となることが多く、開胸で人工血管置換術を行うのが一般的です。

 一方、B型解離は基本的に安静と血圧コントロール治療が行われます。血流障害などを伴うB型解離に対してはカテーテルによる血管内治療を行う場合もあります。手術により救命できても、解離が残存し追加の治療が必要になることもあり、術後も定期通院が必要です。高齢者に多い病気ですが、中年の方にも発症することがあります。

 動脈硬化が主な原因となりますが、生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)、睡眠時無呼吸症候群、喫煙等がリスクとなるため、まずは生活習慣を改善することが大切です。大動脈瘤(りゅう)を持たれている方は無症状でも解離発症のリスクが高くなります。

 当院は大動脈解離の緊急手術を24時間365日体制で受け入れております。大動脈解離は予兆なく突然発症します。強い胸背部痛が生じたら迷わず医療機関を受診してください。

 また当院ではプレミアム心臓・脳ドックを開設しております。大動脈解離を完全に予防することは難しいのが現状ではありますが、上記の通り大動脈がすでに太くなっている方や隠れた疾患があると発症リスクが上がるため、一度全身の評価を行い、安心して健康な人生を送れるようにぜひご活用ください。当院ホームページより問い合わせが可能です。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 きしもと・さとる 鳥取大学医学部卒。同大学病院、国立循環器病研究センター研究員などを経て2022年から現職。医学博士。外科学会専門医、心臓血管外科専門医、腹部ステントグラフト実施医・指導医、胸部ステントグラフト実施医・指導医、TAVI実施医。

(2024年02月05日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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