(63) 鼻の内視鏡手術 川崎医大病院 原田保耳鼻咽喉科教授・部長(61) 入り組む空洞探査し治療 軽い体の負担

原田教授は再発しやすい疾患では内視鏡手術後のアフターケアにも力を入れる。外来に通ってもらい、洗浄したり点鼻薬を処方している

 鼻の奥は粘膜に覆われた不思議な空洞とつながっている。蜂の巣のようだったり、チョウのようだったり。副鼻腔(ふくびくう)と呼ばれる。原田は直径約4ミリの内視鏡を駆使して入り組んだ空洞を探査し、治療する。

 1998年の川崎医大赴任と同時に、中国四国の他施設に先駆けて導入。同年は47件だったが、翌年から100件を突破。2011年には218件に達し、鼻の手術では第一選択となった。「体制が整えばもっとできる」と自信を見せる。

 最大の利点は患者の体の負担が軽いこと。従来は上あごの歯茎を切開し、骨を削って手術していたが、500CC前後の出血を伴い、術後は痛みやしびれと闘わねばならなかった。内視鏡なら出血は20CC以内。手術時間は短く、両側の副鼻腔を手術しても1週間程度の入院で済む。

 症例は粘膜が炎症を起こして膿(うみ)がたまる慢性副鼻腔炎が最も多いが、近年は多数の鼻茸(はなたけ=ポリープ)ができる好酸球性副鼻腔炎が増えている。副作用の少ないステロイド点鼻薬を処方し、再発を抑えられるようになった。

 涙の流路が詰まってあふれたり、目が腫れる鼻涙管閉鎖症も。16回治療を受けてうまくいかなかった患者に、鼻腔にバイパスを通す内視鏡手術を行うと一度で完治。「神様みたいに感謝された」と面はゆそうに思い返す。

 副鼻腔に隣接する眼窩(がんか)や頭蓋(とうがい)底の疾患にも適応を拡大。眼球が突き出して視神経を圧迫する甲状腺眼症では、紙様板(しようばん)という眼窩の薄い壁を取り除いて減圧する。脳下垂体が収まるくぼみ(トルコ鞍=あん)には蝶形骨(ちょうけいこつ)洞から内視鏡で進入し、腫瘍や嚢胞(のうほう)を摘出する。

 眼科や脳神経外科と連携するチーム手術。顕微鏡では死角になって見えなかった部位を内視鏡で明るく映し出すことができ、「悪性でも、取り切れるものは積極的に手術するようになった」と言う。

 学生時代、免疫と内耳の関係に興味を持ち、大阪大に入局して臨床経験を積みながら研究を続けた。アレルギー性鼻炎の原因抗原の調査は川崎医大でも継続し、スギ花粉症の急増を裏づける貴重なデータを得ている。

 臨床に役立つ鼻の内視鏡手術は1985年ごろに海外で確立され、原田は大阪大スタッフの一員として、いち早く技術習得に取り組んだ。鼻腔と副鼻腔間の通路が狭窄(きょうさく)しないよう、粘膜を処理する方法などを独自に工夫し、後進の若手に伝授してきた。

 内視鏡が頭の中のどこを進んでいるかを、カーナビのようにリアルタイムで表示するナビゲーションシステムも普及しつつある。だが、原田はナビに頼らない。「ナビは勉強するにはいいが、読み込みに時間がかかる。わかっているので、見ない方が早く手術を終えられる」からだ。

 そのためにイメージトレーニングは欠かさない。手術前日は禁酒。入浴中、あるいはベッドに入って、どの経路で患部に到達するか、内視鏡の操作を思い描く。「実際に手術する時は3回くらいやった感じがする」という努力が匠(たくみ)の技を支えている。(敬称略)

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はらだ・たもつ 福山誠之館高、川崎医大卒。大阪大耳鼻咽喉科に入局し、大阪逓信病院(現NTT西日本大阪病院)に勤務。米国テネシー大医学部に研究留学後、大阪大講師、住友病院耳鼻咽喉科主任部長を務め、1998年から川崎医大耳鼻咽喉科主任教授。

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副鼻腔の構造 鼻の左右に上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞の四つの空洞があり、合わせて副鼻腔と呼ばれる。鼻腔とは小さな窓(自然孔)で通じているが、ウイルスや細菌感染などで炎症が起きると自然孔がふさがってしまい、痛みや鼻づまり、膿の混じった鼻水の症状が現れる。

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外来 原田教授の外来診察は毎週月・水曜日午前と金曜日午後。原則予約が必要。

川崎医大病院
倉敷市松島577
電話 086―462―1111
ホームページ http://www.kawasaki−m.ac.jp/hospital/index.php

(2013年06月17日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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