(5) 神経内科の病気 脳神経センター大田記念病院 栗山勝院長 脳卒中の前触れ 一過性脳虚血発作

くりやま・まさる 福岡県立明善高、鹿児島大医学部卒。1973年、九州厚生年金病院(現JCHO九州病院、北九州市)を振り出しに、鹿児島大、自治医科大などで勤務。85〜87年、米・セントルイス大に留学。帰国後、鹿児島大助教授を経て、94年、福井医科大(現福井大)第二内科教授に就任。2010年から現職。日本内科学会認定医制度審議会会長、日本神経治療学会理事など務める。66歳。

 ―神経内科が扱う神経疾患、脳血管障害にはどのようなものがありますか。

 栗山 圧倒的に多いのは動脈硬化が原因となる脳卒中などの脳血管障害。ほかに難病のパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)など神経が徐々に変成する神経変性疾患、脳の中枢神経や末梢(まっしょう)神経の免疫機能の異常によって起こる多発性硬化症やギラン・バレー症候群などがあります。外来では、頭痛、めまい、てんかんなどが一般的。てんかんは、脳血管障害後の発病が増えています。

 ―最も身近な脳血管障害は高齢化に伴い、病態がどう変わってきていますか。

 栗山 脳血管障害は糖尿病や高血圧などの生活習慣病にかかれば発症リスクが高まることが知られていますが、近年はこれらの治療や啓発が進んでいるため、軽症化しています。注意すべきは、一時的に脳の血管が詰まる一過性脳虚血発作への対応です。大抵は24時間以内に改善するため甘く見がちですが、これは脳卒中の前触れです。言葉がもつれる、手に力が入らない、意識がぼーっとするといった症状が出た場合、必ず専門の医療機関を受診してください。

 ―脳血管障害の一般的な治療法を教えてください。

 栗山 脳梗塞は、血栓を溶かす血栓溶解療法をまず選択します。t―PAという薬を使います。ただ、発症から4・5時間以内に治療をすることが絶対条件です。この治療ができない場合は、カテーテルで血管内の血栓を抜き取る治療を選択します。一方、くも膜下出血は、従来の開頭手術に加え、破裂した動脈瘤(りゅう)にコイルを詰める血管塞栓術などを行います。これは足の付け根の動脈から細いカテーテルを挿入し、脳に到達させ、病気の部位を治療する血管内治療と呼ばれるものです。最近増えている首の動脈が詰まる頸(けい)動脈狭窄(きょうさく)症に対しては、狭窄部を開く手術や、カテーテルを使ってステント(金網の筒)を入れ狭窄を防ぐ治療などを選択します。

 ―治療法をうかがうと、神経内科と脳神経外科の領域が重なり合う印象を受けます。

 栗山 病状によってどの治療法を選択するかは異なり、神経内科と脳神経外科双方が協力し合う治療が重要です。そもそも、脳疾患障害の場合、心臓や腎臓などの血管でも動脈硬化が進んでいるケースも多く、循環器の専門医も連携に加わることがあります。

 ―脳血管障害といえば後遺症が気になります。リハビリが予後を左右するのではないですか。

 栗山 リハビリは、ひと昔前は急性期が一段落してから行うのが普通でしたが、現在は発症のなるべく早期から行う方が予後が良いことが分かりました。手足の筋肉に力が入りすぎてうまく動かせない患者さんには、ボツリヌス毒素を注射すると、筋肉の緊張が和らぎ、リハビリ効果が高まります。まひした手足の動きをサポートするロボットスーツという機器も実用化されています。

 ―認知症にはどのような種類があり、それぞれどういう治療が行われていますか。

 栗山 アミロイドβ(ベータ)というタンパク質が脳に蓄積して起こるアルツハイマー病、脳血管障害が原因となる血管性認知症、これらを併せ持つ混合型認知症、パーキンソン症状や幻視が現れるレビー小体病などがあります。国内で承認されている治療薬は4種類あり、脳内のアセチルコリンという神経伝達物質の濃度を回復させる働きを持ちます。レビー小体病は漢方薬を使うこともあります。いずれも進行を遅らせることができます。現在、根本治療薬として数十種類の治験が行われています。

 ―認知症と生活習慣病との関係も指摘されています。

 栗山 糖尿病を発症するとアルツハイマー病のリスクが2倍になることが分かっています。普段からの運動や食生活への注意が必要です。趣味を楽しんだり、仲間との会話など、脳のトレーニングも心掛けてください。

 ―福山市を中心とした備後と岡山県西部の笠岡、井原、浅口市などを主な治療圏として、脳神経疾患に特化した専門病院として優れた治療実績を挙げていますが、時代の変化に応じて地域医療への貢献の在り方も変わっているのではないですか。

 栗山 近年は、脳神経の治療で培った技術を生かし、心臓や下肢など、全身の血管を総合的に診察できる診療体制を築いています。脳神経外科と循環器内科が協力して脳卒中患者の心臓の冠動脈の検査を行ったりしているのもその一例です。また、症状に応じて患者をどの医療機関に搬送すべきかを判断できるよう、2カ月に一度、地元の救急隊を対象に勉強会も開いています。


◇脳神経センター大田記念病院(福山市沖野上町3の6の28、電話084―931―8650)

(2014年05月19日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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