はざまの疾患~脳卒中後うつ~ 倉敷スイートホスピタル脳神経外科部長 岡村大成

おかむら・ひろなり 福岡県立三池高、川崎医大卒、同大学院修了。医学博士。しげい病院脳神経外科部長兼総合リハビリセンター長、岡山中央病院脳神経外科部長を経て2013年4月から現職。脳神経外科学会専門医、脳卒中学会専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。

 はざまの疾患とは何「科」を受診したら良いかわからなかったり、疾患として複数の診療科をまたぐものです。たとえば脳卒中後うつの場合、脳卒中科(脳神経外科、神経内科)と心療内科といった具合です。

 この場合、患者さんも分散するため、その経験やデータも集まりにくかったり、それぞれの専門分野を任せ合ったりと、医師の方も不得手となりがちです。また、担当が変わったり、転院されたりして、患者さんのその後を知らない場合も多くあります。

 私自身は以前に回復期リハビリ病棟を担当し、発症早期から自宅退院、その後の通院まで一貫して関わる経験をしました。ここで遭遇したのが脳卒中後うつの問題です。

概要

 一般的には脳卒中の18~62%にうつ(うつ状態)を合併すると言われています。脳卒中後の気分障害では最も頻度が高いものと認識されています。

 脳卒中自体がいまだ日本人の死因の第4位であり、2020年には約288万人に達すると考えられていますので、脳卒中後うつは大きな問題となってきます。

 脳卒中のリハビリでは早期リハが重要であり、訓練の対象期間も決まっていますので、ゆっくり気分の回復を待っている暇はありません。早期より、うつ症状の対処、介入が必要となります。

 突然、話すことや身体が不自由になったりすれば、ほぼ全員が落ち込むことと想像します。これと治療が必要な病的状態とは慎重に区別すべきことと思いますが、何らかの介入が必要なことは同じです。

病因

 うつ病では左前頭葉の「機能低下」が起こっていると言われていますが、まだ、確定には至っていないようです。われわれの検討では、脳卒中の場合はむしろ、右半球の大きな病巣や左半球の前頭葉以外の小さめの病巣がうつ症状を引き起こすことが多いという結果でした。いずれにせよ、脳卒中の場合は直接の損傷の他、その伝達経路の障害でうつ症状が引き起こされています。

症状、診断

 食欲不振や胸苦しさ、頭重感、不眠等の自覚症状の他、空虚感、悲観的、否定的な発言と態度などが認められます。脳卒中後の場合、それに至った原因も明確ですし、身体障害が重度である場合は、介護者や時には治療者側までも精神的に引きずられそうになることもあります。

治療

 リハビリの計画にあたってはその方の性格、職歴、趣味、家族背景などを聞き取り、個々に合った声のかけ方の工夫や、適切かつ具体的な目標設定を一緒に行います。

 また、ドパミン(快感)やセロトニン(気分の調節)、ノルアドレナリン(集中力や積極性)などの脳内神経伝達物質のバランスが人のやる気や気分の調節に関与していますが、脳卒中の場合、発症から回復の過程でその量に変化が見られます。これらはもちろん相互に作用しあっており、近年ではSSRI(脳内のセロトニンを増やす「抗うつ剤」の一種)を早期から投与する機会が増えています。SSRIは従来の薬剤に比べ使いやすく、心療内科以外の一般医にも、うつ病治療の初期治療や維持治療への参加の機会を増やしてきています。

 もちろん使用にあたっては副作用や精神状態の変化への十分な注意、観察は必要ですが、ためらうことなく、適当な時期に適切な投薬を行うことが、その後のADL(日常生活動作)改善につながります。他にもSNRI(脳内のセロトニンとノルアドレナリンの両者を増やす抗うつ剤の一種)などの薬剤がありますので、症状や時期によって使い分けます。

 ではいつまで抗うつ剤などを飲み続けるのでしょうか?

 大まかな目安は内服した状態で調子が良ければそのまま継続し、むしろ多幸的な傾向(すれ違う人全てにあいさつする、一日中理由もなくにこにこしている等)が見られ始めたら徐々に中止する方向で考えます。

代替療法

 従来の方法でうまくいかない時にアニマルセラピー、アロマセラピー、音楽療法などの代替療法が有効な場合もあります。

 大型マシンを使ったパワーリハビリテーションは脳内エンドルフィンを増やし、抗うつ効果を発揮すると言われ、アロマ療法は前頭葉に直接作用するため、即効性に優れると考えられています。

 プランターの植物や観用魚、ウサギなどの小動物が離床を促したり、介助犬は実際に生活のパートナーとなります。

 園芸や創作活動の他、車いすテニス、バスケット、ブラインドサッカーに代表されるさまざまな障害者スポーツや芸術などはその一つの延長上にあると言えるかもしれません。

最後に

 脳卒中の場合、大切なことは再発予防とリハビリを並行して行っていくことです。

 抗うつ剤などのうつ治療はまひ症状などの障害を直接軽減するものではありませんが、過度の精神反応を改善し、リハビリを促進することは障害軽減へつながるものです。早期からの積極的治療が勧められますが、退院し、自宅に帰ってから症状が現れる場合も少なくないようです。ためらわずに担当者に相談し、早めの対処が大切です。

 朝の連続ドラマでも“曲がり角の向こうにはきっと良いことが待っている”と新たな一歩へ背中を押していました。“絶対にあきらめない”ではなく、障害を受け入れ、新しい目標に向かい、“夢叶(かな)うまで挑戦”を続けていきましょう。

◇ 倉敷スイートホスピタル((電)086―463―7111)

(2014年10月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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