(14)倉敷平成病院 「トータルで支える」をより深く

広いリハビリ室の一角でロボットスーツ「ハル」の装着準備

くも膜下出血の手術。脳卒中チームが24時間体制で備える

(上段左から)高尾聡一郎理事長、高尾祐子センター長(下段左から)荻野誉子科長、森智課長

 取材中、救急車のサイレンが聞こえ、高尾聡一郎理事長(脳神経外科医)の表情が引き締まった。医療用PHSの呼び出し音が鳴り、緊急検査を指示するやり取り。緊張感が走る。一瞬にして救急医療現場の第一線医師の姿に戻った。

 倉敷平成病院の救急搬入件数は年間2千件前後に上る。脳梗塞や脳出血の急性期治療で主役を担うのが「脳卒中チーム」だ。脳神経外科、神経内科、麻酔科、リハビリテーション科医で構成し、24時間体制で対応する。高尾理事長は年間100―150件の手術を手がけるという。

 的確な診断へ、従来のMRI(磁気共鳴画像装置)より格段に高画質の画像が得られる「3テスラMR」もいち早く導入した。

 手術を経て、回復期リハビリ病棟(91床)へ。1階にある広いリハビリ室では理学療法士(PT)や作業療法士(OT)らの指導のもと、多くの人が手足の屈伸や歩行練習に励んでいた。PT59人、OT40人など専門職スタッフ総数120人。同病院はリハビリの分野でも岡山県内屈指の充実ぶりを誇る。

 脳梗塞のリハビリに取り組んでいる男性が、手足などの動きを補助するロボットスーツ「HAL(ハル)」を装着し、ゆっくりと立ち上がった。慎重に第一歩。一呼吸置いて、次の一歩。歩き方が徐々にスムーズになっていく。リハビリテーションセンター長の高尾祐子医師がパソコン画面で重心の位置を示しながら寄り添う。

 「患者さんの全身状態を診ながらリハビリできる体をつくり、より効果的な方策を探るのがリハビリ専門医の役目。ロボットスーツにも期待してます」。「ハル」は県の貸与事業で導入し、今は独自にリース契約して使っている。

 病院創設者の高尾武男名誉理事長は脳や脊髄、神経のトラブルで体が不自由になる病気を扱う神経内科医。例えば脳卒中患者を緊急手術で救えても、まひなど後遺症が残る場合が多い。長いリハビリが必要になる。総合病院では状態、症状によって複数の科をまたぐことになり、本人の負担は大きく時に対応が遅れることもある。

 勤務医時代のそんな経験を基に「脳神経疾患に関し、退院後の支援まで含めて一つの病院で。患者をトータルで支えたい」と1988年に開院した。

 運営理念は「救急から在宅まで」。自宅へ帰ってもリハビリは続く。2008年には訪問リハビリ部門も開設した。「患者さん宅でのリハビリだけでなく、住宅改修のアドバイスをすることも多い」と荻野誉子訪問リハビリ科長。

 病院を核に老人保健施設、ケアハウス、在宅支援サービスを統合した在宅総合ケアセンター、複合型介護施設などを展開。病院も今は内科、整形外科、消化器科、呼吸器科、皮膚科、眼科など多数の診療科を抱える。

 認知症への対応にも注力。この分野でも病院と家庭の連携が重要だ。「その人が、どんな人生を過ごしてきたのか。トータルに把握した上で対応するようにしている」。森智医療福祉相談室課長の言葉は深い。

 あらゆる施設やメニューがそろう倉敷平成病院。高尾理事長は「患者や家族に何が必要か。その視点で考え、実行してきた結果」と振り返る。その上で、今後について「例えば体の機能が落ちてきた高齢者。明確な病気ではなく大規模総合病院では対応が難しい。だが、本人や家族は苦しい。こうした人たちをしっかり受け止め、支えていきたい。そのために、サポートの『質』をより高めていかなければ」と結んだ。

◇ 倉敷平成病院((電)086―427―1111)

(2014年11月03日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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