(2)つわりと妊娠悪阻(おそ) 川崎医大川崎病院産婦人科部長 中田雅彦

なかた・まさひこ 県立山口高、山口大医学部卒。同大で研修後、米国留学で胎児治療について研修。山口大准教授、徳山中央病院周産期母子医療センター長など経て川崎医大産婦人科学教授・川崎医大川崎病院産婦人科部長。日本産科婦人科学会認定専門医、日本周産期新生児医学会周産期専門医、臨床遺伝専門医。

 第1回は分娩(ぶんべん)予定日の決め方についてお話しましたが、今回は“つわり”についてのお話です。

 つわりは妊娠4―6週ごろから14―16週ごろまでに見られる吐き気や嘔吐(おうと)のことをいいます。つわりがなぜ起きるのか? という疑問は以前から諸説がありますが、どれも定かではありません。一説には、この時期はちょうど胎児のいろんな臓器が作られる期間なので、胎児に影響があるような食べ物をとれないような防御機構であるとか、またある説では、胎児は母と父の両者から遺伝的要素を受け継いでいるので母にとって半分は“異物”だから拒絶反応があらわれているとか、また、つわりがひどいのは精神的に問題があるなどという偏見を持つ方もいますが、そのようなことはありません。誰がどの程度の症状を持つかはまちまちなのです。

 つわりが酷(ひど)くなって、脱水症状や栄養不足といった病的な状態になった場合を妊娠悪阻といいます。吐き気や嘔吐が継続し、体重が5%以上減少し、尿のケトン体が陽性となれば妊娠悪阻として治療が必要です。ケトン体は“飢餓の警告サイン”で、治療開始の指標になります。治療は原則入院で、点滴による十分な輸液とビタミン剤の投与を行います。妊娠悪阻の状態を放置していて最も怖いのがウェルニッケ脳症です。ビタミンB1の欠乏によって意識障害、眼球運動障害、運動失調症状を引き起こし、症状が進めば物忘れなどの症状も呈しますが、ビタミンB1を含む製剤を投与すれば予防できます。

 つわりは精神的なものだから我慢した方が良いとか、妊娠したので食事内容に注意が必要だからむやみに食べないなどといった無理をする妊婦さんがいます。結果的に、妊娠悪阻となって入院治療が必要になる場合もあります。つわりは我慢するものでもないですし、少しでも心配であれば遠慮なく医療機関を受診されることを勧めます。また、この時期は食べられるものを少しでも摂取するということが大切になってきます。アイスクリームでもお菓子でもこの時期だけは食べ過ぎないようになんて制限はありません。

 つわりや妊娠悪阻が胎児に影響することはありません。適切に管理すれば問題ありませんので、安心して下さい。また、家族や周囲の方々は、妊娠のまだまだ初期でつわりでストレスを感じている妊婦さんが、心理的な安静を保てるように優しく接していただければ幸いです。まだまだ元気な赤ちゃんが産まれてくるには先が長いですよ。

◇ 川崎医大川崎病院((電)086―225―2111)

(2014年12月01日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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