(2)こんな見え方には要注意! 川崎医科大学川崎病院 眼科医長 古〓尚

古〓尚 眼科医長

こんな見え方には要注意!
~眼科で見つかることのあるいろいろな病気~

 外界からの情報の約80%は眼(め)から入ると言われています。そのため「見え方」に少しでも変化が生じればすぐに分かるはずと思われるかもしれませんが、中には片眼が失明に近いほど悪くなっていても気付かない患者さんもおられます。なぜなら、片眼だけ悪くても良い方の眼がカバーして自覚症状を隠してしまう場合があるからです。また、片眼が見えにくいと思っていたけれど、実際には両眼の視野に異常が見つかることもあります。今回は、そんな見え方の異常についてお話しさせていただきます。

 まず物が見える仕組みについて。よく眼はカメラと同様に例えられますが、実際は眼球内の網膜で感知した光を電気信号に変え、視神経を介して脳の後頭葉にある一次視覚野(以下、視覚野)に情報を伝達し、その後脳内のさまざまな部位で処理をして物の色、形、動きなどを瞬時に認識しています(脳で推定して見ている)。左右の眼からの神経線維は、視交叉(しこうさ)というところで互いに約半分ずつ交叉しますので、視覚野には、右眼からの約半分と左眼からの約半分の神経線維が合わさって情報が伝わります。したがって、(両眼同時に起こることは少ないという理由から)片眼だけに症状があれば眼の病気を考えます。

 一方、両眼に生じる視野異常があれば、左右の眼球から伸びている神経線維の一部がどちらも障害されているという意味なので、視交叉から後ろの頭の病気(脳梗塞、脳腫瘍など)を考えます。

 片眼の見え方の異常として、糸くずが見える、急に全体が見えなくなる、見ようとする部分が暗く、ゆがんでいるなど、眼科特有の病気に伴う自覚症状に紛れて“眼の前が突然暗くなったが数分から数十分で元に戻った”という見え方があります。これは眼の病気ではないかもしれないので要注意です。一過性黒内障(こくないしょう)と呼ばれ、一過性脳虚血発作(血流が乏しくなる現象)の一つです。不整脈や動脈硬化などが原因で、眼を栄養している眼動脈(内頸動脈から枝分かれしている)が一時的に詰まってしまった可能性があり、放置すれば5~20%の人が将来脳梗塞を起こすと言われています。度々起こるようであれば、専門の医療機関での検査をお勧めします。

 視野異常の他に両眼の見え方の異常で重要なのは、物が二重に見える複視(ふくし)です。片方の眼球が動かなくなって、両眼の視線がずれた時などに起こります。運転中にセンターラインが急に二つに見えるようになったと言われる患者さんが多いです。原因はさまざまですが、主に(1)外眼筋(眼球を動かす筋肉)に指令を出すために脳幹から出ている眼球運動神経(動眼神経、滑車神経、外転神経)の麻痺(まひ)(2)神経と外眼筋とをつなぐ部分に起こる病気(重症筋無力症)(3)外眼筋自体に病気が及ぶこと―などで起こります。

 (1)の眼球運動神経麻痺の原因として、脳幹の虚血、糖尿病(神経線維自体の虚血)、外傷、脳腫瘍などがありますが、糖尿病性であれば3~4カ月程度で回復することが多いです。(3)は甲状腺眼症(甲状腺の病気と関連して外眼筋に炎症が起こって腫れてしまい、筋肉が動かなくなる病気)、眼窩(がんか)吹き抜け骨折(野球のボールなどが眼に当たった際に、眼球を取り囲む骨が折れて起こる)、副鼻腔(ふくびくう)粘液のう胞(副鼻腔内にできた腫れ物が筋肉を圧迫して起こるが、視神経を圧迫すれば見えなくなる)など、多種多彩な原因で起こります。

 いずれにしましても、突然複視を自覚する患者さんが来られたら、眼科以外の病気の存在を念頭に置き、早期の段階で適切に診断することが重要となります。

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 ふるせ・たかし 島根県大田高理数科、鳥取大医学部卒。広島県・因島総合病院、姫路赤十字病院、日本鋼管福山病院、赤穂中央病院、岡山大病院眼科講師などを経て2013年から現職。医学博士。日本眼科学会専門医。川崎医科大眼科学2講師。

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 川崎医科大学川崎病院((電)086―225―2111)

(〓は瀬のオオガイが刀の下に貝)

(2015年02月02日 更新)

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