(3)小児の近視予防はできるか 川崎医科大川崎病院眼科部長 長谷部聡

長谷部聡眼科部長

 近視とは、目のピントを合わせる筋肉(調節力)をリラックスした状態で、遠方から来る光線の焦点が網膜より前にずれた状態で、遠方が見づらくなります(図1)。遠視は逆に焦点が後ろにずれる状態ですが、程度が軽ければ、調節力でカバーされるため、視力障害はみられません。昨年度の文部科学省の統計では、高校生の視力1・0未満の割合は65%、視力0・3未満の割合は42%で、年々悪化の一途をたどっており、その原因のほとんどは近視人口の増加によるものであろうと考えられています。

 学童期に近視がなぜ進むか、眼科医の中でも長年議論されてきました。最近では眼軸長(眼球の前後長)が過度に伸びることが主な原因であることがはっきりしています。このため強度の近視眼はふつう、前後に長いフットボールのような形状を示します。眼軸長が過度に伸びると、網膜などが薄くなり、病的変化を起こし、将来、黄斑変性症、網膜剥離(はくり)、緑内障といった失明につながる眼病にかかりやすくなります。したがって近視の進行や眼軸長の伸びの著しい小児期に、いかにこれらを予防するかは、今日でも眼科医にとっては大きな研究テーマとなっています。

 近視予防法は、民間療法を含め無数にあります。しかし科学的エビデンスによって治療効果が証明されたものは、累進屈折力眼鏡(図2)、オルソケラトロジ―、アトロピン点眼液の三者のみです。しかしいずれも、予防効果が小さかったり、副作用の問題があったりするため、決定的な近視予防治療にはなり得ていません。しかし現在も、より効果的かつ安全な治療法を発見すべく、複数の方法について、国内外で臨床研究(ランダム化比較対照試験)が実施されていますので、実用化も遠くはないと思われます。川崎医科大川崎病院でも、大阪大、慶応大、京都府立医科大など全国7大学協同で極低濃度アトロピン点眼液を用いた臨床研究を行う準備をしています。

 米国、オーストラリア、シンガポールで行われた数千人の小学生を対象とする疫学調査によれば、近視進行には遺伝因子と環境因子の両者が関係しているが、前者の影響がきわめて強いことが報告されました。例えば、両親とも近視でない子どもさんに比べ、両親とも近視の子どもさんでは8倍、片親のみが近視の子供さんでは2~3倍、近視になりやすいがわかりました。

 一方、環境因子としては、昔からいわれてきたように、読書や書字の際には十分距離をとって正しい姿勢で行うほうがよいこと、天気の良い日に屋外活動するほうがよいことなどが明らかになっています。近視予防治療が確立されていない現状では、まずはこのような生活習慣をきちんと守ることがよいでしょう。

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 川崎医科大学川崎病院(電086―225―2111)

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 はせべ・さとし 岡山朝日高、鳥取大医学部卒。岡山大大学院医学研究科修了。公立学校共済中国中央病院、岡山大病院眼科講師。米カリフォルニア州立大バークレー校、米国ションズホプキンス病院(斜視・弱視部門)に留学。2013年から現職。医学博士。日本眼科学会専門医。川崎医科大眼科学2教授。

(2015年02月16日 更新)

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