脳・神経・運動器の急性期、体制充実 岡山旭東病院

サイバーナイフの前でスタッフと話す吉岡診療統括部長(右)

土井章弘院長

 到着間際、反対側から来た救急車が専用口へ向かった。岡山旭東病院(岡山市中区倉田)。「昔は交通事故が多かった。今は脳血管障害。脳・神経・運動器の急性期病院として、体制を整えている。例えば、夜間にMRIをすぐ撮れる病院は他に少ないはず」と土井章弘院長は話す。

 脳血管障害の中でも怖い、くも膜下出血。「ハンマーで殴られたような」とも形容される激しい頭痛。約10%は脳動脈瘤の最初の破裂で死亡し、再出血がまた命を奪う。

 破裂といっても風船のように瘤全体がはじけてしまのではなく、破れて出血しても瘤は残る。緊急手術は再出血の阻止が目的。頭蓋骨を一部外し、硬膜、くも膜を開く。多くは血管の分岐部にある瘤の根元にチタン製のクリップをかけ、瘤内に血流が入り込まないようにする。

 術中に脳の特定部分を電気刺激し、身体の機能を確かめながら手術を進められる「MEP(運動誘発電位モニタリング)」、静脈注射したインドサイアニングリーン(ICG)により血流を確認しながら手術できる「術中ICG蛍光血管撮影」…。最新機器と技術が、生死の境にある患者と医師らを支える。

 「技術の進歩で手術の確実性が大きく増した。自分が脳神経外科医になった1970年代半ばには、くも膜下は状態が安定するまで2週間待って手術するのが常識で、その間に再出血などで多くが亡くなった。隔世の感がある」。吉岡純二診療統括部長は言う。

 3月下旬、またもくも膜下出血の患者が運び込まれた。80歳代半ばの男性。CT検査で脳の左右両方に瘤があることが判明。血が全体に広がり、どちらが破れたのか判然としない。吉岡統括部長らは「多分左側だろう」と推測しながらも、年齢も考えて血管内手術を選択した。

 脚の付け根からカテーテルを入れ、脳動脈瘤まで到達させる。その上でカテーテルを通じてプラチナ製のコイルを送り込み、瘤に詰め込んで再出血を抑える。この患者の場合、まず左、続いて右側と両方の瘤を一気に処置した。専門病院の実力発揮といえる。

 外科手術に比べ患者への負担が少ない(低侵襲)、脳の奥深い部分にも対応可能など、血管内手術のメリットは大きい。それでも確実性の点から、「まずはクリッピングを考える」(吉岡統括部長)という。

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 「高血圧のコントロールがよくなって、以前に比べれば脳出血は減った」と同部長。代わって近年多いのが脳梗塞だ。心臓にできた血栓が脳に運ばれたり動脈硬化により、脳の大切な血管が詰まる。全国で年間約20万人が発症し、7万人以上が死亡している。

 血栓溶解薬「組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)」。「さらなる梗塞を防ぐ」ことを軸にするしかなかった脳梗塞治療に、光明を与えた。静脈注射と点滴で投与すると血栓に付着して溶かし、血流回復に導く。ただ、使用は「発症後4時間半以内」に限られ、脳出血の危険なども考えねばならない。

 やはり発症後8時間以内の制限付きだが、詰まった血栓をカテーテルで取り除く治療法もある。血栓を絡め取る「除去型」やポンプで吸い出す「吸引型」が行われている。

 脳の病気でもう一つ怖い脳腫瘍。岡山旭東病院は、これに対しても「サイバーナイフ」という強力な“武器”を持つ。定位放射線治療器。全国で3番目、世界でも8番目の稼働だった。従来の放射線治療と異なりエックス線を患部に正確に照射できるのが特長。精度は0・5ミリ。細いビームを患部に向けて多方向から放ち、安全・確実に治療を行うことができる。

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 「朝起きたらおかしかった」という脳梗塞患者。この場合、発症時間が確定できないからtPA治療などはできない。脳動脈瘤の破裂や脳腫瘍にしても、何より発症しないのが一番。そのために、岡山旭東病院は昨春オープンした「健康センター」を拠点に、各種健診に力を入れる。

 3テスラMRI、64列マルチスライスCTなど最新機器を備え、脳、PETがん、心臓などドックメニューも充実。発症前に病変を見つけだし、早期治療につなげる。昨年は前年比約10%増の延べ1839人が各種ドックを受けた。

 「医療環境も重要」(土井院長)という考えの下、院内には多くの絵画やアート作品が飾られ、月に2、3回演奏会なども開かれる。2013年度には経済産業省の「おもてなし経営企業」にも選ばれた。

 土井院長は「医療機関が充実した岡山県南にあって、合併する内科疾患にも対応しながら『脳・神経・運動器』の専門性をさらに深めていきたい」と話している。



 岡山旭東病院((電)086―276―3231)

(2015年04月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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