(17)津山中央病院 未来へ変革 地域支える高度医療拠点

普段でも緊迫感が漂う救命救急センター

(写真左上から)浮田芳典理事長、藤木茂篤院長(左下から)林同輔上席副院長、森本直樹救命救急センター長

(上)がん陽子治療センターの完成予想図(下)一連の整備事業の完成予想図

 吉井川の支流・加茂川の畔(ほとり)。水と緑の向こうに近代的な本館がそびえる。周囲には関連施設や健康管理センター、駐車場。建設中の建物も見える。

 「この病院は地域にとって最後の砦(とりで)。医療を通じ、将来にわたって地域住民の命と健康を守っていく使命がある」。経営母体の一般財団法人・津山慈風会の浮田芳典理事長が、窓外に目をやりながら声に力を込めた。

 1950年代初め、津山市を含む岡山県北・作州エリアには総合病院がなく、県南の大病院に赴く途中で命を落とす人も多かった。「何とかしたい」。救命を願う地元開業医たちが力を合わせ、津山慈風会を設立。54年、同市二階町に津山中央病院が誕生した。

 国立病院・療養所の再編が次の転機に。旧国立療養所津山病院にも地元自治体への移譲話が持ち上がり、津山市と津山慈風会を受け皿に、津山病院跡地へ新病院と、地域悲願の救命救急センターを整備する構想に発展。曲折はあったが、99年、現在の地に新病院が完成した。

 「当時、病院の医師は計60人弱。この人数で1年365日、1日24時間患者を受け入れるのは、本当に厳しかった」。藤木茂篤院長は救命センターの発足時を振り返る。



 移転・新築を機に、津山中央病院は新たなステップへ。医師数は今や120人を超え、各科医師の協力を得て救命センターは「断らない救急」を追求。2014年には心停止151人、心筋梗塞などの急性冠症候群141人、脳血管障害99人など重症者だけで1826人を治療した。

 消防の救急救命士の技術向上にも力を注ぐ。肺にチューブで酸素を送る気管挿管を現場で行うには、30症例分の病院実習がいる。同病院での修了者は計118人(5月20日現在)。森本直樹救命センター長は「県北一円のほか、兵庫県佐用町などからも患者がくる。搬送時間を考えれば現場で救命士が知識と技術、そして判断を問われる場面が否応なくある」と話す。

 日本人の死因の上位を占めるがんや心臓疾患、脳血管障害などの治療でも高い実績を誇る。昨年は膀胱(ぼうこう)87、胃75、肺62、大腸74など計490例のがん手術を実施。胃や大腸の早期がんを低侵襲で切除するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)、心臓を止めないで冠動脈バイパス手術を行うオフポンプ手術など先進・高度医療に積極的に取り組む。通院で抗がん剤治療ができる「化学療法センター」を13年に開設し、がんの早期発見につながる画像診断装置PET/CTの受診は昨年、1344件を数えた。

 脳死移植の分野でも脳死判定を経て、ドナー2人を送り出している。



 昨年末には作州エリアの多数の医療機関と「連携登録医制度」を創設した。容体に応じた患者の相互紹介などを進める。「かかりつけ医との連携なしにはこの広い地域で患者の健康を守れない」と林同輔上席副院長。連携医療機関の情報を即座に得られる新検索システムも計画中だ。

 地域とともに歩んできた同病院は、再び変革期を迎えつつある。そのシンボルが、建設中の「がん陽子線治療センター」。加速器で水素の原子核を加速し、がんをピンポイントで攻める最新治療法。従来のエックス線やガンマ線による放射線治療と違い、正常な細胞、臓器への影響が少ない。中四国初となる施設は来春オープンし、慈風会と岡山大が共同で運用する。

 ほかにも17年春を目標にロボット手術などが可能な新手術室、緩和ケア病棟を含む新病棟などの整備計画が進む。「がん、脳外科、整形、心臓疾患…。もちろん全てが可能とは言わないが多くの分野で引き続き高いレベルを目指す。特に急性期医療は重要」。藤木院長の言葉には、説得力があった。

 最新設備と多くの専門医らのもとに、より広域から患者らが集まる近未来。「今回の投資は大きな経営判断だが、今後はより広い地域を視野に信頼を築いていかなければならない」。浮田理事長は覚悟を見せた。



津山中央病院((電)0868-21-8111)

(2015年06月01日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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