(2)脳疾患 津山中央病院脳神経外科部長 吉田秀行

吉田秀行脳神経外科部長

【図1脳血管撮影】右大脳の血管が血栓により詰まり、血管が写っていない(矢印、写真左上)。経皮的血栓回収術により、詰まっていた血管の再開通が得られ、血管が写るようになった(写真右上)。血栓回収用ステントのイメージ図(写真下、Covidien社ウェブサイトより転載)

【図2開頭クリッピング術】脳動脈瘤(矢印、写真左)。2個のクリップにより動脈瘤への血流を遮断した。その結果、動脈瘤は収縮している(矢印、写真中)。術中ビデオ血管撮影で動脈瘤への血流がうまく遮断できていること、および、重要な血管の血流に問題がないことを確認した(写真右)

 私たち脳神経外科医は、脳卒中や脳腫瘍、あるいは頭部外傷など、脳にかかわるさまざまな病気・けがに対して治療を行っています。津山中央病院脳神経外科の昨年の手術症例数は260症例で、およそ30万人を数える岡山県北医療圏内の超急性期脳卒中や重症頭部外傷の患者さんをほぼ一手に引き受け、治療に当たっています。

▼脳梗塞と「経皮的脳血栓回収術」

 脳卒中とは、言葉の意味からは「突然起こす脳の病気」のことで、一般的には「脳梗塞」「クモ膜下出血」「脳出血」の三つの病気のことを言います。なかでも最も多いのは脳梗塞で、脳卒中の約8割を占めています。脳梗塞とは、脳の血管の一部が詰まって脳に血が流れなくなり、脳が損傷を受けてしまう病気です。一度損傷を受けた脳は元に戻すことは難しく、そのために半身まひや失語症、認知症などの後遺症がいつまでも残ってしまい、その後の人生に大きな障害を残すことが多いです。

 このように、後遺症が大きな問題となる脳梗塞ですが、最近、脳梗塞を治すための治療がどんどん進歩してきており、県内の一部の病院ではこういった脳梗塞の先端医療が可能になってきています。

 その一つは、「t―PA」という特殊な注射薬を用いた治療です。この薬は詰まってしまった脳の血管を再開通させる働きを持っています。当院でもt―PAを注射した結果、詰まった血管が再開通して半身まひや失語などの症状が劇的に良くなった患者さんが大勢おられます。ただし、t―PAを使用できるのは発病後4時間30分以内と決められています。それ以上時間が経ってしまうと、t―PAの効果が下がるだけでなく、副作用で脳出血を起こす可能性が高くなるからです。また、t―PAによって詰まった血管が再開通する確率は約30%程度で、再開通率は決して高いとは言えません。

 そこで当院では、発病から病院に到着するまでの時間が長すぎるなどの理由でt―PAが使用できない場合や、t―PAを使用したにもかかわらず十分な効果が得られなかった場合に、「経皮的脳血栓回収術」という先端医療を行っています。これは、詰まった脳の血管の中にマイクロカテーテルという非常に細い管を入れ、詰まった血の固まりを掃除機のように吸い取ったり、あるいは、ごく細い針金でできたステントという小さな器具で血の固まりをひっかけて引っ張り出して回収する方法で、岡山県北では当院のみ、県南でも限られた施設でしか行われていない高度な医療です(図1)。

 この治療を行うためには、発病から8時間以内であることなどの条件があります。当院では、昨年7月はじめから本年6月末までの1年間で23例の経皮的脳血栓回収術を行いました。この手術を受けた人のうち、約80%もの患者さんで詰まった血管を再開通させることができ、症状改善に大きな威力を発揮しています。

▼クモ膜下出血に対する治療

 クモ膜下出血は、脳の表面を走る太い血管が破れて出血を起こす病気です。「脳動脈瘤(りゅう)」という、脳の血管の一部が風船のように膨らんだ異常部位が破裂している場合がほとんどです。放置すれば命にかかわることのある緊急性の高い病気で、救命のための緊急手術を行う必要があります。当院では昨年1年間に24例の手術を行いました。

 クモ膜下出血の患者さんに対しては、動脈瘤クリップと呼ばれる特殊な器具を用いて動脈瘤への血流を遮断し、二度と出血を起こさなくする「開頭クリッピング術」を行っています。この手術においては、手術中に脳の障害が起きていないことを確認できる「術中電気生理モニタリング」や、動脈瘤への血流がうまく遮断できており、脳の重要な血管に異常がないかどうかがわかる「術中ビデオ血管撮影」などの最新技術を駆使して手術の安全性を確保しています(図2)。

 また、症例によっては岡山大学血管内治療チームと連携して「血管内コイル塞栓術」も施行しています。これは、脳の血管の内側からコイルと呼ばれる細くて柔らかい針金を動脈瘤の中に詰め込み、動脈瘤からの出血を起こさないようにする治療法で、近年適応症例が増加しています。

▼地域完結型医療を目指した脳神経外科診療

 一方、脳出血の手術に関しては、ごく小さい傷で手術できる「内視鏡下脳内血腫除去術」を半数以上の症例で行っており、身体の負担をできるだけ少なくすることを心がけています。

 その他、急性硬膜外血腫や急性硬膜下血腫といった重症頭部外傷に対しても24時間対応しており、頭部外傷に対する緊急開頭手術症例数も岡山県内でトップレベルです。

 また、脳腫瘍に対しても手術ナビゲーションシステムを用いた安全確実な手術を心がけています。

 このように当院では最新の医療技術・医療機器を用い、県北の方々の脳神経外科治療は県北で受けられるよう、地域完結型の医療を目指して日夜診療に励んでいます。



 津山中央病院((電)0868-21-8111)

よしだ・ひでゆき 愛媛県・愛光高、岡山大医学部卒。カナダ・カルガリー大留学後、岡山済生会総合病院、香川県立中央病院などを経て、2012年より津山中央病院勤務。医学博士。日本脳神経外科学会専門医。

(2015年08月03日 更新)

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