(3)rt―PA静注療法とは 川崎医科大学 脳卒中医学教室講師 祢津智久

祢津智久講師

 脳梗塞とは、脳の血管に血栓がつまり血流が途絶えた脳細胞が死んで(壊死=えし)しまう病気です。脳梗塞は手足の麻痺(まひ)、構音障害などが主症状ですが、時に視野障害、めまいなどの症状も伴います。完全に壊死してしまった脳細胞は回復することはありませんが、血管に詰まった血栓を早期に溶かすことによって脳細胞が壊死するのを防ぎ、脳梗塞の後遺症を減らすことが期待できます。この血栓を溶かす治療(血栓溶解療法)の代表が「rt―PA静注療法」です。

有効性 

 rt―PA(遺伝子組み換え組織型血栓溶解薬)はアメリカで1995年に初めて認可され、日本では2005年から使用されています。日本で臨床的に使われているt―PAは全てこのタイプで、既に10年あまり経過しました。脳梗塞を起こした患者に対し、われわれ脳卒中医が最初に検討する標準的治療法であり、点滴の治療ですので比較的速やかに治療を開始することができます。rt―PAはどれくらいの有効性があるのでしょうか。脳梗塞発症3カ月後に後遺症なく社会復帰できる割合が通常治療法では20%であるのに対し、rt―PAでは約1・5倍の30%に高まると報告されています。

限界と解決策

 rt―PAは血管に詰まった血栓を溶かすことができる薬であると同時に、出血傾向になりますので血液検査の状態、内服薬の状態、既往歴、手術歴などによっては行うことができません。また、発症から4・5時間以内の患者にしか使用できず、4・5時間以内であっても既に広範囲な脳梗塞ができあがってしまった患者さんには使用することはできません。なぜなら、発症から時間がたってしまい、既に脳細胞が壊死してしまった状態でrt―PAを使用すると、合併症として脳出血(出血性梗塞)のリスクが高くなるからです。

 こういった時間的制約や患者さんの状態による制約があることから、脳梗塞患者全体の中でrt―PAが使用できた患者は5%前後であると報告され、まだまだ少ないのが現状です。脳梗塞の治療において何よりも大切なのは、発症からなるべく早く治療を開始することであり、早ければ早いほど、社会復帰できる割合が高くなります。そのためには、一般市民の脳卒中に対する理解がきわめて重要で、脳梗塞が疑われたら一刻も早く救急車を呼ぶことが大切です。また、救急隊と病院の連携、病院内の多職種の連携を強化し、迅速に脳卒中診療を行うことが大事と言えるでしょう。

新たな展開

 前述したように、発症から4・5時間を超えてしまった脳梗塞患者にはrt―PAは使用できません。また、発症時間が明確でない患者には使用が難しいケースがほとんどです。たとえば、夜の0時に就寝した人が、翌朝7時に目覚めた時に手足の麻痺が起きていた場合、発症時間不明として対応されます。

 午前6時に脳梗塞を発症していたのかもしれませんが、現在のルールでは最後に健常であった時間、すなわち寝た時間を発症時間として採用するため、起床時には既に7時間経過していると判断され、rt―PAは使用できません。したがって、こういった発症時間不明の患者の中で、実際にはrt―PA静注療法の恩恵を受けることができる患者が少なからず存在すると考えられています。MRI画像診断を駆使し、おおよその発症時刻を推定してrt―PA静注治療が有効かどうかを検証する医師主導型研究「THAWS(ソーズ)研究」が現在行われており、結果が期待されています。

 また、脳の太い血管に大きな血栓が詰まった場合はrt―PA静注療法だけでは効果不十分の場合が多いです。このような場合は、rt―PAにカテーテルを用いた血管内治療を併用するときもあります。血管内治療に関しては、以後の回でより詳しく取り上げる予定にしています。

 ねづ・ともひさ 兵庫県・甲陽学院高、広島大医学部卒。広島大病院脳神経内科、国立循環器病研究センターを中心に脳卒中診療を研修し、2015年より現職。日本神経学会専門医。日本脳卒中学会専門医。

(2016年03月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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