(2)血液疾患で用いる分子標的薬 倉敷中央病院 血液内科主任部長 上田恭典

上田恭典血液内科主任部長

血液疾患で用いる分子標的薬一覧

 慢性骨髄性白血病(CML)は、大部分の血球の元締めとなる多能性造血幹細胞のレベルで白血病が生じる病気です。Tリンパ球以外の血球が、白血病由来となり、血球数の調節がつかず増加しますが、働きは普通とほとんど変わりません。したがって、慢性期はインターフェロンや内服薬で数を調節するだけでよいのですが、インターフェロンが著効を呈する一部の方を除いて、経過中にほぼ全例急性白血病化するため、造血幹細胞移植しか根治手段はない大変な病気でした。

 CMLは9番染色体と22番染色体の一部が互いに入れ替わる(9;22)転座が特徴で、22番染色体のBCRと呼ばれる部分と9番染色体のAblesonがん遺伝子がつながって、BCR/ABLと呼ばれる新しいがん遺伝子ができ、そのがん遺伝子が作る酵素が、チロシンというアミノ酸にリン酸塩を付け加える活性を持つことが腫瘍化の原因と考えられました。この酵素の立体構造を決め、酵素として働く活性部位を蓋(ふた)する物質を人工的に作ったのがイマチニブです。

 イマチニブの内服で、大多数のCML患者のCML細胞が著減し、正常の造血が回復、さらに内服を続けることでCML細胞は減り続け、急性化することもまれとなり、移植を考慮することもほぼなくなったのです。さらに改良された薬剤も使用可能となっています。現在、著効が得られた方で、薬を中止する臨床試験が慎重に進められています。

 日本で多いB細胞性非ホジキンリンパ腫は、抗腫瘍剤が最もよく効く悪性腫瘍の一つで、30年余り前からCHOPと呼ばれる4種類の薬を組み合わせた治療が標準的に行われていますが、CHOP療法にBリンパ球の表面にあるCD20という性質に対する抗体薬であるリツキシマブを併用することで、リンパ腫細胞が傷害され、食細胞の攻撃を受けやすくなり、治療成績を顕著に高めることができました。

 リツキシマブは、現在では悪性リンパ腫の治療だけでなく、Bリンパ球が関係する免疫の病気にも使われています。また別の抗CD20抗体に電子線を出すイットリウムを付けた、イブリツモマブチウキセタンという放射線抗体薬も使用されています。抗体薬は対象を絞りやすいため、現在さまざまな腫瘍に対して使用されています。

 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板に対する抗体ができて、脾(ひ)臓などで血小板が破壊されることが病因と考えられていますが、血小板のもとになる巨核球の生成が不良となる場合も多く、巨核球の増殖を刺激することで、約半数の患者の血小板数が増加することが分かっています。われわれの体内ではトロンボポエチン(TPO)という造血因子が巨核球を刺激しますが、TPOは薬として投与すると抗体ができるため、現在ではTPOの代わりに巨核球表面のTPOの受け口(受容体)にはまり込んで巨核球を刺激する、TPO受容体作動薬が開発され、抗体を作ることなく巨核球を刺激し、難治性ITPの治療薬として使用されています。

 現在全く発想の異なる、悪性腫瘍に対する免疫力の抑制を解除する、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる抗体薬が、いくつかの悪性腫瘍で使用されつつあり、血液疾患の領域でも今後効果を発揮すると期待されています。表に、既に現在、臨床の現場で使用されている分子標的薬を挙げてみました。

 分子標的薬は、未知の副作用に留意しつつ、慎重に開発、使用されることで、治療を一変させる可能性を秘めているといえるでしょう。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

(2016年05月02日 更新)

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