(10)地域で診る脳卒中 川崎医大病院脳神経外科部長・日本脳卒中協会岡山県支部長 宇野昌明 同病院脳卒中科部長・同副支部長 八木田佳樹

宇野昌明脳神経外科部長・日本脳卒中協会岡山県支部長

八木田佳樹脳卒中科部長・日本脳卒中協会岡山県副支部長

▽はじめに

 今まで9回、「脳卒中の最前線」と題して治療やリハビリについてご紹介いたしました。今回は最終回で、地域全体で脳卒中を克服していくことを取り上げます。

1 脳卒中発症から受診まで

 脳卒中の症状が出現したらすぐに救急車を呼んで、脳卒中専門病院を受診することが何より大切です。倉敷地域では救急隊員の皆さんに「倉敷プレホスピタル脳卒中スケール」という脳卒中重症度を簡便かつ迅速に評価できるスコアを救急車の中でつけていただき、すぐに搬送病院に知らせるようにしています(図1)。連絡を受けた病院ではすぐに救急処置(t―PAや血管内治療)ができる準備をして待つようにしています。

2 急性期病院の役割

 脳卒中治療は時間との戦いです。特に脳梗塞に対するt―PA投与は発症から4・5時間以内ですからたいへんです。われわれは治療の流れを7Dで表現しています(図2)。7Dとは(1)発見→(2)出動→(3)搬送→(4)来院→(5)情報→(6)方針決定→(7)治療開始―を表す英単語がすべてDで始まることに由来します。これらのすべてを、4・5時間以内に完結しなければなりません。逆算すると、発見(発症)から来院までの猶予はわずか3・5時間です。受け入れた病院でも患者さんの来院から60分以内に治療を始めることを目標としています。これは容易なことではなく、救急隊および各病院内でのチームワークが重要です。

3 急性期病院から回復期リハビリ病院への連携

 さて、急性期治療が一段落し、後遺症が残った場合は回復期リハビリテーションを行うために専門の病院に移ります(図3)。この際、急性期病院で行った治療および患者さんの情報を回復期リハビリ病院に詳細にお伝えします。回復期リハビリ病院では集中的にリハビリを行い、患者さんが少しでも社会復帰、自宅復帰ができるようにします。このような一連の連携を行う時、「医療ソーシャルワーカー」という専門の方が患者さんの相談に乗ってくれ、問題解決に向けて援助してくれます。

4 ホームドクターの重要性

 リハビリ病院から自宅に退院した場合、あるいは介護施設に入所した場合は、全身の状態を管理してくれるホームドクター(かかりつけ医)を決め、血圧、血糖などの管理を相談します。特に血圧は脳卒中再発の最大の因子ですので、ホームドクターとよく相談して薬の服薬量、食事の内容を調節してください。自分で判断して服薬を中止したり、偏った食事をすることはやめましょう。

5 日本脳卒中協会の活動

 日本脳卒中協会は、脳卒中に関する正しい知識の普及および社会啓発による予防の推進と脳卒中患者さんの自立と社会参加の促進を図り、それにより国民の保健、福祉の向上に寄与することを目的として、2005年3月に設立されました。その一つの事業としてNHK岡山放送局、川崎医科大学とが共同で09年4月から10年3月末まで「脳卒中防止キャンペーン」を実施しました。この期間、NHK岡山放送局が、毎週1回夕方のテレビローカルニュース枠で約15分間の脳卒中に関する特集を放送しました。

 期間終了後、モデル地域(岡山市)とキャンペーンが放映されていない対象地域(呉市)の住民に対して脳卒中の発症時の症状、発症時の対応等についての聞き取り調査を実施しました。その結果、キャンペーンによる知識改善効果が明らかになりました。また、各都道府県において脳梗塞急性期に対するt―PA静注療法が実施可能である医療機関を調査し、実施可能な施設を11年1月から日本脳卒中協会ホームページで公開しています。

 昨年からはAC Japanを通じて脳卒中の症状啓発を行っています(図4)

▽終わりに

 これまでに脳卒中の種類、症状、治療法、リハビリテーション、地域で行う連携について、お知らせしてきました。脳卒中は寝たきりの原因となる最も多い病気です。日ごろから予防に心がけ、発症したらすぐに専門医に受診するということを守っていただければと思います。

 うの・まさあき 操山高、徳島大医学部卒。徳島大病院、徳島赤十字病院などを経て2009年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。公益社団法人日本脳卒中協会岡山県支部長。

 やぎた・よしき 香川県立高松高、大阪大医学部卒。大阪大病院神経内科・脳卒中科など経て2014年から現職。日本脳卒中学会専門医、日本神経学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。日本脳卒中協会岡山県副支部長。

(2016年07月04日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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