いつまでも楽しく、元気に動けるために

阿部信寛整形外科部長

山下裕之理学療法士

島本一紀整形外科医長

玉田利徳整形外科副部長

東條好憲整形外科医長

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第7回開院記念市民公開講座が6月17日、センター内の川崎祐宣記念ホールで開かれた。同病院の山下裕之・リハビリテーションセンター理学療法士、島本一紀・整形外科医長、玉田利徳・整形外科副部長、東條好憲・整形外科医長の4人が、「いつまでも楽しく、元気に動けるために」をテーマに講演した。

冒頭あいさつ
「健康と元気」のためのチーム医療 整形外科部長 阿部信寛


 年齢を重ねるとともに筋力はどうしても落ちてきます。腰や膝などの関節も悪くなってきます。ロコモティブシンドローム(ロコモ)をご存じですか。「骨や関節、筋肉など運動器の衰えにより、暮らしの中での自立度が低下し介護が必要になったり、寝たきりとなる危険性の高い状態」をいいます。

 メタボリックシンドローム(メタボ)というのもあります。血圧が高くなって脳出血や脳梗塞が起きたりします。ロコモはメタボ、認知症と同じように、要介護や寝たきりになる主要な原因です。動けるかどうかが大切で、動けば脳も活性化します。

 お勧めしたい運動があります。ダイナミックフラミンゴ療法といい、目を開けたまま1分間片足立ちをします。手をついても構いません。1分間の片足立ちは53分間の歩行に相当します。左右1分ずつ3回繰り返してください。これにより介護度が42%下がります。

健康のための運動はどうすればいいの?
―骨・関節を痛めたときのリハビリのコツ
リハビリテーションセンター理学療法士 山下裕之


 骨、関節、軟骨、椎間板、筋肉といった運動器が障害され、「立つ」「歩く」などの機能が低下した状態をロコモティブシンドロームといいます。

 この運動器が傷んでくると痛み、関節可動域の制限、姿勢の変化、柔軟性や筋力、バランス能力の低下をきたします。放置していると症状は急速に進行し、要介護の状態になることがあります。予防するには体操、ストレッチ、ウオーキングなど適度な運動の継続が大切で、生活の中に取り込むことがコツです。

 不本意にも運動器を傷めてしまった場合の話をします。通常、肩や腰などに痛みが出るとその部位は使わないようにするものです。そして、必要以上にかばってしまう傾向に陥ります。すると筋肉は衰えます。加えて、その筋肉を動かす神経系も鈍くなり、関節や背骨(脊柱)は固まってしまいます。だから、動かした方が良いのです。

 運動器が傷んで進行してしまった場合の話です。膝や股関節が痛い変形性関節症、腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症という障害がありますが、痛い期間が続きます。一般的には痛みのある部位は無意識にかばい、使わなくなります。かばった体の使い方を学習して、癖になるということです。

 また、手術をした後に関節や腰部の痛みが軽減、消失しているにもかかわらず、体の使い方は痛みがあった時と変わらないことがよくあります。関節の動きが良くなっても、体全体の使い方まで自然に改善するとは限りません。

 われわれリハビリテーションセンターのスタッフは、膝なら伸ばす曲げる、肩なら万歳ができるだけでなく、立つ、歩く、立って上の方の物をとるなど、体全体の使い方を整えることを重要視しています。最終的には生活の幅を維持拡大し、質の向上を図ることを目指しています。

健康にはスポーツ・運動が一番大切
―半月板・軟骨・靭帯が悪いと言われましたが、治りますか?
整形外科医長 島本一紀


 膝スポーツ外傷で最も代表的なのが前十字靭帯(じんたい)損傷で、ジャンプ、ターンなど瞬間的に大きな力がかかる動作中に起きることが多い外傷です。靱帯には前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靭帯と四つありますが、その中でも前十字靱帯は最も大切な靱帯です。症状としては痛み、動きの制限、膝が抜けるような感じ、膝の腫れを認めることが多く、その状態でスポーツを続けると、半月板、関節軟骨が損傷を受け、早期に変形性関節症に至るため、専門医による適切な診断、治療が早期に行われるべき外傷です。

 前十字靭帯断裂が生じた場合、自然に治癒する確率は低く、スポーツ活動の継続を望む方や若い方は手術治療が必要です。手術は関節鏡視下で、自分の膝周囲の腱(けん)を使って靭帯を移植し、前十字靭帯を再建します。スポーツ復帰には半年以上かかります。

 靭帯損傷と並んで多いのが半月板損傷です。膝をひねった状態で、荷重がかかった際に受傷し、しばしば靭帯損傷と合併します。断裂を起こしやすい形態(円板状半月)があると、軽微な外傷で受傷することもあり、加齢による変性のため損傷が生じる場合もあります。損傷すると膝のひっかかり感や痛みを伴います。断裂が進行し、ロッキングといわれる膝の屈伸ができない症状が出ることもあります。日常生活、スポーツ活動に支障をきたす場合は手術が必要であり、関節鏡視下切除術か縫合術が施行されますが、近年は半月板温存の重要性から、可能であれば縫合術をすることが多くなってきています。

 半月板とともに軟骨を傷める方もいます。治療は軟骨の再生を促す骨髄刺激法、骨軟骨柱移植です。広範囲な軟骨欠損の場合は自家培養軟骨移植がありますが50歳以下が対象です。

腰痛・肩こりは整形外科医の得意分野です
整形外科副部長 玉田利徳


 腰痛のうち原因が特定できるのは15%程度と言われます。しびれ感や下肢痛があればMRI検査が役に立ちます。高齢になれば脊椎圧迫骨折を起こしたり、腰自体が原因でない内臓からの腰痛もあるので、総合病院での受診をお勧めします。

 残りの85%は病気ではない、原因が見つからない腰痛です。「非特異的」腰痛と言って、日本では2800万人とも報道されました。慢性化させないためには「自分で治そう」という心構えが大切です。

 病気でない腰痛の多くは、ある動作をしたり、ある姿勢をとったりしたときに発生します。こんな単純な、機械的な理由が、知らず知らずのうちにため込まれていて、繰り返す腰痛が慢性化すると悩みが深くなってしまうのです。そもそも関節だけでなく腰は引き伸ばされると痛くなる仕組みで、これを元に戻せば痛みは治まることから、腰痛治療の基本は動作や姿勢に関連していると言えます。

 そして、効果的な訓練方向が定まれば、その回復が早まります。また、再発を予防することにも有効で、腰痛の予兆が出たら直ちに実行することを習慣にします。つまり、自分で管理できれば、他のどんな治療法より効果的なのです。

 マッケンジー法という対処法があります。腰痛、四肢の関節も伸展のストレッチから始めることが有効性が高いといわれています。訓練は適度な負荷をかけて行います。最初は、立ったまま壁で体を支え、少しずつ腰を伸ばします。あるいは、うつぶせに寝て肘で体を起こしてみます。段階が大切です。できると思ったら、腕を伸ばして体を大きく反らせてください。

 痛みを克服できる具体的な行動を続けながら、今日から毎日「腰みがき」に取り組んでみましょう。

痛くて運動できないなんて言わせない
―最近の人工関節は優れものです
整形外科医長 東條好憲


 人工関節はいくつかのパーツに分かれています。主として金属でできていますが、金属同士がこすれ合うと、体に有害な摩耗粉が出てしまうので、間に軟骨の代わりになるポリエチレンがはまっています。2、3年に1回交換すればいいとはならないので、できるだけ長持ちさせるというのが命題です。それに当たっては摩耗、緩み、脱臼といった問題がつきまといます。

 まず摩耗です。軟骨の代わりになるポリエチレンですが、ビタミンE添加やクロスリンク、MPCポリマーといった技術革新が起きています。ポリエチレンの中にビタミンEを添加すると減り具合が3分の2ぐらいになるといわれています。クロスリンクは放射線を照射して分子同士をくっつけてより固く、摩耗に抵抗できるようにする技術です。MPCポリマーは、ポリエチレンの表面に特殊な加工をすることで、水にぬらすとヌルヌルになります。そうしたことで、理論上は100年持ちます。

 続いて緩みです。人工関節は骨にしっかり固着しなければならず、隙間ができると安定しなくなります。緩みは人工関節の周囲の骨が溶ける骨融解が大きな原因ですが、ポリエチレンの摩耗量との相関関係がいわれています。年間に0・3ミリ以上削られると、ほぼ100%骨融解の障害が出ます。摩耗が0・06ミリ以下に抑えられると骨融解が防げるといわれています。ポリエチレンの進化が緩みに対しても貢献しています。

 脱臼は、股関節で問題になる事象です。金具の至適設置位置の研究が進んでいます。至適位置は患者さん一人一人違うので、ナビゲーションシステムを利用した手術をしています。

 現在の人工関節は、痛みはより少なく、姿勢は制限がより少なく、活動性はより高く―が実現できるようになってきています。

(2017年07月03日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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