(1)陽子線治療 津山中央病院放射線治療センター副センター長(陽子線部門) 放射線科医長 脇隆博

がん陽子線治療センターの外観とエントランス

従来のエックス線治療と陽子線治療の比較

脇隆博放射線治療センター副センター長・放射線科医長

 がんは日本人の国民病といわれるほどに長年にわたって死因首位を占め続けており、2015年は約37万人(28・7%)が死亡しています。年次推移は一貫して増加しており、第2位の心疾患(15・2%)の約2倍で、今後も首位を明け渡す兆しはなさそうです。

 そのような状況で、新しいがん治療法の研究も盛んに行われており、中でも注目されているものの一つが陽子線治療です。当院のがん陽子線治療センターは、本邦で11施設目、中国四国地域では初となる陽子線治療施設で、16年4月より治療を開始しました。同年7月には先進医療実施施設として認可を受けました。17年7月時点で223人の治療相談を受け、134人(予定含む)の治療を行っています。

適応疾患

 当院で行っている陽子線治療の対象疾患は、肝がん、肺がん、胆管がん、膵(すい)がん、食道がん、前立腺がん、小児がんなどです。今年4月からは脳腫瘍の治療も始めました。陽子線治療の適応を決定するために患者・疾患ごとにカンファレンス(キャンサーボード)を実施し、治療に関係する放射線治療医、放射線診断医、内科医、外科医が集まって事前協議をしています。陽子線治療と抗がん剤治療を併用した化学陽子線治療を積極的に行っていることは当院の大きな特徴です。また、小児がんと脳腫瘍については岡山大学病院との合同カンファレンスを実施しており、陽子線治療・外科治療・抗がん剤治療を組み合わせた集学的な治療方針の決定を行っています。

特徴、問題点、展望

 陽子線治療は従来の放射線治療(エックス線治療)と比べて病変に放射線を強く当てながら、病変周囲の正常臓器への被ばくを少なくできるのが特徴です。そのため、より根治性が高く副作用が少ない治療が可能となります。

 陽子線治療の問題点はその費用です。成人患者の場合、通常の保険診療ではなく先進医療という枠組みで治療が行われるため、陽子線照射技術料として288万3千円という高額な費用がかかります。その経済的負担のため、全ての患者が陽子線治療を受けられるわけではないということが大きな課題となっています。

 最も望ましいのは陽子線治療が保険診療で行えるようになることです。現在、肝細胞がんや肝内胆管がん、前立腺がんなどの疾患の特定の病態に対して、当院も含めた全国の陽子線治療施設が共同した臨床試験が進行中で、その結果が今後の保険診療実現へ向けての大きな一歩となります。

小児がん

 16年4月の診療報酬改定で小児がんに対する陽子線治療が保険診療で行うことができるようになりました。小児は成人と比べて放射線による影響を強く受けてしまうことは大きな懸案事項であり、最も重大な問題は放射線を浴びることで起こる二次発がんです。従来のエックス線治療と比べて不必要な放射線被ばくを低減できる陽子線治療を安価に受けることができるようになったことは、小児がん患者やその家族にとって大きな意味をもつ改定でした。当院でも16年9月より小児がん患者に対する陽子線治療を開始し、これまで8人の治療を行いました。

おわりに

 日本人の2人に1人ががんとなる現状で、陽子線治療の発展・普及はがん治療の新しい選択肢が増えるという意味で非常に重要です。当院はこれまで主に岡山県北の方々に医療を提供してきましたが、今後は岡山県全体さらには中四国地域の方々に最善のがん治療を提供できるよう、日々努めていきます。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 わき・たかひろ 香川県立高松高校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院放射線科、兵庫県立粒子線医療センター放射線科を経て、2015年より現職。医学博士。日本放射線腫瘍学会および日本医学放射線学会放射線治療専門医。がん治療認定医。

(2017年08月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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