「中皮腫診断・治療拡充を」 松岡良明賞の岸本卓巳氏に聞く
岸本卓巳氏(きしもと・たくみ) 専門は呼吸器内科。1978年岡山大医学部卒。総合病院南陽病院(山口県)、呉共済病院を経て91年岡山労災病院へ。健康診断部を立ち上げ、2003年から副院長、06年から同病院アスベスト関連疾患研究センター長。日本医師会認定産業医。岡山市南区東畦。65歳。
―アスベスト関連疾患の研究を始めたきっかけは。
米国留学から帰国後の1986年、呉共済病院(呉市)に赴任した。当時は珍しかった病気を月1例ほどの頻度で診るようになった。悪性がんの一種・中皮腫だ。患者の職歴を聞くと、戦艦大和の建造で知られる旧呉海軍工廠(こうしょう)や造船所で働いていたという。昔は船舶に断熱材としてアスベストが使われており、作業中に吸い込んだ可能性があることが分かった。そこから、石綿吸引の指標となる肺の中の石綿小体(石綿繊維にタンパク質が付着したもの)を測定するための研究を始めた。
―国のデータでは、95年に国内で500人だった中皮腫の年間死者数は2016年に1500人を超えたとされる。
アスベスト関連疾患は、発症までの潜伏期間が平均約43年と長く、吸入した量が多いほど発症は早まる。国内でアスベスト建材の使用が全面禁止となったのは06年のこと。それまでは大量に使われてきたため、しばらくは患者が減ることはないだろう。
―診断・治療で課題が多いと聞く。
中皮腫は肺や心臓といった臓器を包む膜にできる悪性腫瘍で、診断が困難な病気の一つだ。手術で取り除くのは極めて難しく、抗がん剤も効きにくい。さらに治療後の経過が思わしくなく、生存期間は長くない。私自身、何度も悔しい思いをしてきたが、諦めるわけにはいかない。早期に正しく診断し、適切な治療を提供できる体制をより拡充していかなければならない。新薬開発が進んでおり、治験で良い結果が得られたものもある。早く実用化されるよう、国に働き掛けていく。
―アスベストの健康被害は世界的な問題でもある。
アジアでは安価な原材料であるアスベストが今も多く使われている。私自身、モンゴルや中国へ出向き、医師らに診断方法などの指導や研修を行っているが、浸透には時間がかかるだろう。これまで培った知識や技術を海外でも役立てたい。
(2017年11月06日 更新)
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