(6)力を信じてそばにいる~臨床心理士 倉敷中央病院小児科臨床心理士 妹尾香苗

倉敷中央病院小児科では、臨床心理士や医師、看護師ら多職種が協働し、病気に立ち向かう子どもたちを支えている

妹尾香苗小児科臨床心理士

 子どもたちの大きな笑い声、リコーダーやピアノの音色、見守るご家族の柔らかい声…。小児病棟の一角に、今日もたくさんの音が響きます。耳を澄ませると、点滴のアラームや医療機器をガラガラと引く音も聞こえてきます。子どもたちの頑張っている音が、確かにそこにあります。

 小児がんはある日突然やってきて、子どもたちの生活を大きく変えていきます。きょうだいや友達と一緒に遊ぶ、好きな物を食べる、買い物に行く。今まで当たり前だったことができなくなり、痛みを伴う治療や検査、長期の入院を強いられます。ご家族は、大切な家族の一員が苦痛を感じないためにはどうしたらよいか心配し、憤りや悲しみ、無力感を抱えておられます。子どもたちは、病院という制限された空間で、大人でも投げ出したくなるようなしんどい治療に耐え、病気に向き合っています。

 心理士は病院にいながら、薬の調整や手術などの身体治療に直接かかわる手段を持っていません。同僚の心理士や専門医と相談し、育ちや発達の視点を持ちながら、治療チームの一員として、子どもが本来持っている「成長・育ちの力」や「困難を乗り越える力」を支えることを目指しています。心理面接室、病室、プレイルームなど、子どもの状態に合わせた場所で、遊んだりお話をしたり、ご家族の不安や心配な気持ちに寄り添います。

 子どもたちは、体調や治療について話したり、人形を戦わせたり、一緒に工作をしたり、思い思いに過ごします。子どもの体調が優れない時、心理士はただそばに座って過ごすこともあります。子どもたちの言葉にしない緊張感や不安、怒り、逃げ出したい思いなどを受け止め、当然の心の動きとしてそのまま認めます。怖いものは怖い、嫌なことはやっぱり嫌だ、そう感じる自分はおかしいのではない―と思えることを大切にします。そうすれば子どもなりに治療を受け入れ、困難に立ち向かう力が育っていきます。

 「明日は痛い注射があるんだよ」。治療への不安に圧倒されていた男の子が、自ら治療予定をカレンダーに書き入れます。「しんどいな…でも演奏したい」。体力低下により院内学級への往復が厳しい道のりだった女の子が、院内行事で懸命に楽器演奏を披露します。子どもたちの踏ん張りと成長に私たちはいつも驚かされ、心を打たれます。

 心理的なサポートは、心理士だけにできる特別なことではありません。これまでの連載で取り上げてきた医師、看護師、院内学級の教員、保育士をはじめ、リハビリスタッフや薬剤師、ソーシャルワーカーなどがそれぞれの立場で子どもや家族と関わる時、いつもそこにあります。異なる専門性を持ったスタッフが携わることで、子ども一人ひとりの得意なことや困りごとがより立体的に見えてきます。心理士の役割は、子どもたちの持つ力を信じ、感じながら、そっとそばにいることなのかもしれません。これからも、子どもたちにたくさんのことを教わりながら、活動したいと思っています。

 今月11日、公益財団法人「がんの子どもを守る会」の公開シンポジウムが松山市のひめぎんホールで開かれます。今回の連載ではお伝えできなかった思春期・若年成人期に発症するがん患者の治療や生活の支援をテーマに話し合います。小児がんに関心を持ってくださる皆さん、ぜひ一緒に参加しましょう。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 せお・かなえ 倉敷南高校卒、徳島大学大学院総合科学教育部臨床心理学専攻修了。臨床心理士。愛媛大学医学部付属病院精神科を経て、2015年から倉敷中央病院小児科に勤務。

(2017年11月06日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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