急増する梅毒患者、背景と対策は 県環境保健センター岸本所長に聞く

感染が広がる梅毒に対し、予防の徹底を呼び掛ける岸本所長

 岡山県内で急増している梅毒患者。今年は10月29日までで138人に上り、現行の集計方式になった1999年以降で最多だった昨年1年間(40人)を既に超え、収まる気配が見られない。薬の進歩で「昔の病気」のイメージが根付いていた梅毒の感染が、再び拡大しているのはなぜか。背景や対策について日本性感染症学会理事で県環境保健センターの岸本寿男所長に聞いた。

■背  景

 国立感染症研究所の統計などを見ると、東京、大阪といった大都市だけでなく、岡山など地方にも感染が広がっており、全国的な傾向のようだ。今のところ、感染経路などの疫学的なデータはどこも持っておらず、急増の原因は分からない。ただ、考えられる要因の一つとして学会や歓楽街近くの医師らが指摘するのは、まん延国からの観光客の増加による影響だ。海外からの「持ち込み感染」に注意を払う必要がある。

 感染拡大の背景には梅毒の特性もある。赤いしこりが出る初期症状は軽く、いったん収まるため、自覚がない場合が多い。その後、全身に発疹が出るが、これもいったん消える。こうしたことから感染に気付かず、知らない間に他者にうつしてしまうと考えられる。

 医療サイドにも課題がある。戦前の梅毒患者は国内で数十万人にも上ったが、ペニシリン系抗菌薬が使われるようになり減少した。医師は患者を診る機会が減り、経験の少なさから見分けが難しくなり、適切な治療をできていないケースもあるだろう。

■対  策

 治療は投薬が基本。海外では抗菌薬の筋肉注射1回で治療が終わるのに対し、国内では内服のみに限られ、治療終了まで数週間を要する。かつては海外と同様の方法だったが、薬の純度が低かったためショック死する患者が相次ぎ、禁止された。現在は安全性が確保されており、国の専門家会議などでは即効性の筋肉注射の復活が議論されている。

 最近の傾向で20代、30代の女性が増えていることも懸念される。妊娠・出産が多い世代であり、母子感染の危険性をはらむ。子どもらの先天梅毒の報告数は、以前は全国で年間数件だったが、現在は2桁に達している。胎児に感染すると死産や早産のほか、目や耳に障害が残る恐れがある。

 予防には、不特定多数との性的接触を避ける▽完璧ではないが、性行為の際は避妊具を使用する▽初期症状を見逃さない▽身に覚えがある場合は早期に医療機関を受診するか、保健所に相談する―を徹底してほしい。医師への啓発も欠かせない。

(2017年11月08日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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