岡山大学大学院産科・婦人科学 増山寿教授 専門性生かした総合力が強み

増山寿教授

 ―長い伝統を誇る産科・婦人科学教室の第13代教授に就任されました。

 教室は1888(明治21)年、岡山藩医学館の流れをくむ第三高等中学校医学部産婦人科として開講しました。その歴史は原田元貞・初代教授以降、この春から岡山市立市民病院の顧問を務める平松祐司・第12代教授まで脈々と受け継がれ、2018年に130周年を迎えます。

 岡林秀一・第6代教授はのちに「岡林術式」と呼ばれる子宮頸(けい)がんの手術法「広汎子宮全摘術」を発表され、今も世界的にその名を知られています。八木日出雄・第8代教授は太平洋戦争中たった2人で教室を守り、戦後は岡山大学長として活躍されました。いずれの教授も岡山県はもとより、わが国の医療や教育の発展に尽力された方々です。

 教室からはこれまでに千人もの優れた産婦人科医を輩出しています。現在、同門会員は約500人、関連病院は中国四国地方から関西まで40施設に上り、地域医療を担っています。

 ―教室の特徴はどんなところにありますか。

 「周産期」「婦人科腫瘍」「生殖内分泌」「ヘルスケア」という産婦人科が対象とする四つの領域すべての専門医および指導医が在籍しており、それぞれの専門性を生かした総合力の高さが最も大きな強みといえます。私は関場香・第10代教授、工藤尚文・第11代教授、そして平松教授と3人の教授の下で研さんを積ませていただきましたが、いつも「すべては患者さんのために」をモットーに、チームワークで取り組んできました。お互いに助け合うという仲間意識、そして絆の強さを感じています。

 われわれの考える産婦人科医のミッションは、女性の健康を生涯にわたってサポートするとともに、健やかな次世代を育んでいくことです。その実現に向けて、高度な治療と最新の研究、専門の教育に日夜全力で臨んでいます。今後は先人が守り築いた伝統を重んじながら、時代の変化やニーズを踏まえた新たな伝統をつくっていくことが私に与えられた責務です。

 ―最近の診療の実績を教えてください。

 晩婚化を背景に出産年齢の上昇が進み、われわれが診る妊婦さんは今年、40代が全体の20%を占めています。妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といったさまざまなリスクを抱える患者さんが多く、従来以上に一人一人に対する丁寧なケアが必要になっています。

 妊婦さんの血液から胎児の染色体疾患を調べる「新型出生前診断(NIPT)」は年間200件程度を実施しています。診断を受けるかどうかを含め、こちらが一方的に意見を押しつけるのではなく、ご夫婦と十分に話し合い、医学的な知識を理解してもらった上で意思決定していただくことを大切にしています。

 子宮頸がんや卵巣がんなど悪性腫瘍の手術も教室の“お家芸”の一つですが、私も毎年150件を超える手術を手掛けてきました。ほかにも、大量出血の恐れがある前置胎盤の妊婦さんなど、よそでは対応が難しいケースを扱うことも少なくありません。

 いずれも院内の他診療科と連携した体制を築いており、教室の総合力に加えて大学の高い総合力を生かし、患者さんに安心してもらえる環境を提供しています。

 ―なぜ産婦人科医を志されたのでしょう。

 よくある話だと思いますが、病気の家人を熱心に診てくれた医師の姿に憧れを抱いたのがきっかけでした。産婦人科を選んだのは、研修でたまたま出産の場面に立ち会ったことが大きかったですね。まさに赤ちゃんが誕生する瞬間。その感動と喜びは今も決して変わることはありません。

 これまで数千人に上る赤ちゃんを取り上げてきましたが、そのたびに同じように感動と喜びに包まれます。この科を選んで本当に良かったと心から思っています。

 ―今後の取り組みを聞かせてください。

 岡山大学病院の周産期医療の責任者となった2001年から15年以上、重症症例の診療に携わり、地域全体の周産期医療水準の向上と診療体制の強化に努めてきました。これからもアカデミアの一員として、先進的な治療や研究をより一層進めていかなければなりません。

 特にがんに関して、低侵襲なロボット支援手術を増やし、より効果的な治療薬の選択につなげるゲノム医療を推進していく考えです。関連病院とのネットワークを生かし、分娩環境を守るなど地域医療の維持発展にも貢献していきます。

 患者さんのためにわれわれは何をすべきか―。それを追求していけば、方向性はおのずと見つかるはずです。例えばかつての「岡林術式」なども、そんな患者さんへの思いから生み出されたものだと思います。

 新しい産婦人科医の仲間を増やすために、科の魅力を広めていくことも大きな課題です。私がそうであったように、赤ちゃんが生まれる瞬間の感動と喜びを学生たちに伝えることで、後に続いてくれる人を育てたいと考えています。若い先生方が最大限の力を発揮できるような環境も整えていきます。

 ますやま・ひさし 大阪府立四條畷高校、岡山大学医学部卒。同大学大学院医学研究科修了。米国セントルイス大学客員研究員、岡山大学医学部付属病院産科病棟医長、同大学病院准教授、同大学大学院産科・婦人科学教室准教授などを経て、2017年7月から現職。日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会、日本内分泌学会をはじめ、中国四国産科婦人科学会、岡山県産婦人科医会などの役職も多数務める。56歳。

(2017年12月04日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

タグ

カテゴリー

関連病院

PAGE TOP