(3)頭部外傷 岡山中央病院脳神経外科科長 平野一宏

 今回は、脳神経外科の外来を受診される患者さんが多い頭部外傷を取り上げます。

 ●「頭をぶつけました」=単純頭部外傷

 「頭を打ちました」とか「頭を殴られた」という患者さんが受診されると、その状況を聞きながら、「気を失いましたか?」「頭が痛いですか?」と質問し、頭部に加わった外力の強さを推測します。また、頭部や顔面に傷があれば、それをもとに外力がかかった方向を推測します。

 意識障害も頭痛もなく、生活に支障がない場合は、「単純頭部外傷」あるいは「頭部打撲」と診断して経過をみますが、意識や記憶に異常があったり、頭痛がある方は頭部CT検査を行います。交通事故、転落、けんか、酔った状態での受傷、そして本人が状況を覚えていない場合も、頭部に予想外の力が加わっている恐れがあるので頭部CTを行います。

 ボクシングのアッパーカットやフックのように、頭部に回転方向の外力が加わった場合や、首の痛みがある場合は、頸部(けいぶ)の検査も行います。

 頭部外傷後の治療は安静が第一です。打撲後数日は安静を保つようにお話しし、どうしても仕事や勉強をしなければならない方は、それ以外の時間はできるだけ安静にするように指示します。痛みがある場合は鎮痛薬を処方します。

 ●「気を失った」「頭を打つ前のことを思い出せない」=脳振とう

 脳振とうはスポーツや交通事故で発生することが多い頭部外傷です。脳を強く揺さぶられ、脳全体、特に脳幹の働きが一時的に低下するために起こる脳機能障害で、受傷後6時間以内の意識障害や、健忘、頭痛、めまいなど、のような症状がみられたら脳振とうを疑います。

 脳振とうは、頭部CT検査で脳の損傷はみられないと言われていましたが、頭部MRIでは脳の中の小さな腫れ(図1)や頭蓋内出血が見つかることがあります。

 脳振とう後、数日から数週間のうちに頭部外傷を繰り返すと、強い脳の腫れや頭蓋内出血が生じ、生命に危険が及んだり、後遺症が残ったりする「セカンドインパクト症候群」という病態になることがあり、慎重な対応が求められます。

 スポーツの試合中などに頭部を打撲し、脳振とうが疑われた場合は、(1)試合に復帰させず安静を保ち、必ず見守る(2)病院を受診し検査を受ける(3)脳振とうの症状が続いている時期は安静を保ち、競技へ復帰させない―といった対策が必要です。

 症状が消失した後も、運動なし→有酸素運動→身体接触のないトレーニング→身体接触を含むトレーニング→競技復帰―という段階を踏んで、脳の機能が回復していることを確認してください。復帰後も、脳振とうを繰り返さないよう注意が必要です。

 ●「頭を打った直後はなんともなかったのに…」=慢性硬膜下血腫

 「頭を打ってすぐはなんともなかったのに、最近、頭が痛い」「歩きにくい」などと言われる方が受診されると、慢性硬膜下血腫を疑って頭部CT検査を行います。高齢の方のほか、アルコールを多飲する方、血が固まりにくくなる薬を飲んでおられる方にも多い病気です。

 「家の鴨居に頭をぶつけた」時や、頭を打ったことを忘れてしまうような軽い頭部打撲でも、頭蓋骨の下の脳を守っている膜(硬膜)と脳の隙間に少量の出血が起こることがあります。体は出血を吸収しようとして血の周りに膜をつくり、新たな血管を送り込みますが、それでもうまく吸収できず、血がたまり続けると、打撲から1、2カ月後に頭痛や手足の麻痺(まひ)などの症状が出てきます。この状態が慢性硬膜下血腫です(図2参照)。

 症状がなく、脳の圧迫が少ない薄い血腫の場合は、経過観察していれば自然に吸収されることがあります。頭痛や麻痺などで日常生活に支障が出ている方には、局所麻酔をして頭蓋骨に百円玉くらいの大きさの穴を開け、血腫を吸引する手術(穿頭術=せんとうじゅつ)を行います。

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 岡山中央病院(086―252―3221)

 ひらの・かずひろ 川崎医科大学付属高校、川崎医科大学卒。川崎医科大学付属病院勤務を経て、2014年に岡山中央病院脳神経外科へ赴任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。

(2018年05月08日 更新)

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