特別講演 IVRを御存知ですか?~体にとてもやさしいガンの治療を目指して~ 岡山大学病院長 金澤右氏

金澤右病院長

IVR-CTシステムやオープン型MRIを配備する岡山大学病院IVRセンター

PET検査で肺がんを確認(写真左)。先端が傘のように開く針でガンを焼灼(同中央)。治療後のPET検査ではガンが死滅していることが分かる

針の先端に超高圧のアルゴンガスを送り込むと、マイナス40度の氷(アイスボール)ができる

IVR治療などについての講演が行われた「健康フェスタ in Okayama」

 岡山大学医学部創立150周年(2020年)に向けた記念事業「健康フェスタ in Okayama」(岡山大学、山陽新聞社など共催)が5月3、4の両日、岡山コンベンションセンター(岡山市)で開かれた。岡山大学医学部の講師陣を中心に31人が計16の公開講座を開講。金澤右岡山大学病院長は「IVRを御存知ですか?~体にとてもやさしいガンの治療を目指して~」をテーマに特別講演を行った。



 IVRとはインターベンショナルラジオロジー(Interventional Radiology)の略称で、日本語では「画像下治療」と訳す。X線(レントゲン)やCT(コンピューター断層撮影)、超音波、MRI(核磁気共鳴画像装置)、PET(陽電子放射断層撮影装置)などの画像で体内の病変を確認しながら、カテーテル(細い管)や針などの特殊な医療器具を体内に挿入して治療を行う。治療対象はガンや心臓、血管の病気などだ。多くの場合は局所麻酔で済み、体にほとんど傷痕が残らず、体への負担も少ない。技術の進歩とともに、近年は外科手術に匹敵するほどの高い治療効果が期待できることから、私はIVRを「メスを使わない手術」だと言っている。

 岡山大学病院は2013年、総合診療棟にIVRセンターを開設した。

動脈塞栓術 ガンに針を刺し直接治療

 IVRにはさまざまな種類がある。ガンのIVRは「動脈塞栓術」から始まった。ガンは非常に増殖が盛んで血流に富むため、血流を遮断することでガンを栄養不良に陥らせ死滅させる方法だ。血管撮影をしながら太ももの付け根にある太い動脈からカテーテルを入れ、目的の血管まで到達させる。カテーテルを通して抗ガン剤と塞栓物質を注入すると、ガン内の血管が詰まり血流が遮断される。

 しかし、動脈塞栓術には限界がある。大きいガンの周りに潜在する非常に微小なガンや血流に富んでいないガンは画像に映らないため、治療ができない。

アブレーション ガンの早期発見が重要

 画像診断は目覚ましく進歩し、画像を見ながら体表から針を刺してガン組織を採取する「針生検(組織診)」、ガンに針を刺して直接治療をするIVRの一つ「アブレーション」が可能になった。アブレーションにはラジオ波治療や凍結治療などがあり、カテーテル手術ではできない、潜在的なガンをも死滅させることができる。

<肺ガンのラジオ波治療> 

 肺ガンの治療は従来、外科切除手術、抗がん剤治療、放射線治療のみだった。画像診断の進歩とともに小さな肺ガン(3センチ以下)が日常的に発見されるようになり、体への負担が軽いIVRの需要が高まった。

 ラジオ波治療は、体表からガンに電極針を刺し、ラジオ波と呼ばれる高周波の電流を流す。針先に生じる60~100度ほどの摩擦熱をピンポイントでガンに当て、焼灼(しょうしゃく)して死滅させる。

 ラジオ波治療を行うとガンは死滅するが、ガン細胞の殻は体内に残っているため、画像には映る。だから、経過観察に画像診断が大変重要になる。画像を比較することで治療効果が分かり、再発にも早く気づくことができる。

 また、ラジオ波治療は再発部分も治療でき、放射線治療などと組み合わせて効果を高めることもできる。3センチ以下のガンではラジオ波治療の成績は良く、特に2センチ以下は約90%がコントロールできることが分かってきた。

 岡山大学病院では01年からラジオ波治療に取り組んでいる。原則として外科的治療ができない患者さん(高齢者、低肺機能者、他臓器に転移がある人)が対象だ。ただ、肺ガンのラジオ波治療は保険適用ではないため自費で約40万円かかる。

<腎臓ガンの凍結療法> 

 腎臓ガンに対しては、体の中に氷(アイスボール)をつくりガンを死滅させる凍結治療がある。

 画像を見ながらガンに針を刺し、針先に送り込んだ超高圧のアルゴンガスを急激に減圧すると、針の周囲にマイナス40度以下のアイスボールができる。ガン細胞の外にある水分が氷になると周囲の液体が濃縮され浸透圧に差ができるので、ガン細胞が壊れる。ガン細胞内にある水分が氷になると膨張するので、やはり細胞が壊れる。さらに細い血管が閉塞されることで細胞が死滅する。この三つの原理が組み合わさっている治療法だ。ガンが完全にアイスボールの中に入り込むと治療ができたことになる。

 凍結治療にはハイドロディセクションという特殊な技術がある。治療する病変に消化管などの臓器が隣接している場合、水を注入して病変の治療域から臓器を遠ざけ、その臓器が凍結するのを防ぐ。

 凍結治療は4センチ以下の腎臓ガンに適用される。凍結治療がガンそのものに対する免疫力を高めるといわれているのも利点だ。画像診断で偶然発見される早期腎臓ガンが増えており、今後この治療法はますます有用になるだろう。腎臓ガンの凍結療法は11年に保険適用になっている。

ガンの早期発見が重要 定期検診を受けよう

 肺ガンは3センチ以下(理想は2センチ以下)、腎臓ガンは4センチ以下で完治する確率が高く、転移がなければ生存確率は極めて高い。一般的にはこの大きさの時には症状が出ないので、定期検診や人間ドックなどで早期発見することが重要だ。55歳を過ぎたらガンの発症率は明らかに上がるので、検診を心掛けてほしい。



 かなざわ・すすむ 岡山大学大学院修了。米テキサス大学M・Dアンダーソン病院研究員、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授、岡山大学病院副病院長などを経て、2017年から現職。専門は放射線医学、IVR。長野市出身。62歳。

(2018年05月27日 更新)

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