糖尿病性腎症の重症化防ごう 対策専門会議が岡山でシンポ

糖尿病性腎症の重症化予防をテーマに専門医や行政の責任者が議論したシンポジウム

糖尿病の重症化予防に向けた医療機関連携の取り組みを語った岡山大学病院の四方賢一教授

 「糖尿病」と診断されても、ほとんどの人は最初は何の症状も出ない。だが、本当は怖い病気だ。進行すれば、失明につながる網膜症、人工透析が必要になる腎症、心筋梗塞、脳梗塞など、全身でさまざまな合併症を引き起こす。

 岡山県内の医療機関が連携する「岡山県糖尿病対策専門会議」は、糖尿病患者に適切な受診を呼びかけ、重症化を防ごうと、教育プログラムの作成や研修会の開催などの取り組みを展開している。8月19日、県医師会と共に岡山市で開いたシンポジウム「糖尿病性腎症の克服を目指して」では、腎症の重症化予防に焦点を当て、専門医、行政担当者ら4人が講演した。

 国立国際医療研究センター研究所の植木浩二郎・糖尿病研究センター長は、腎症の重症化を防ぐには、未診断・未受診のままになっている患者が受診するよう促すこと、治療開始後も中断しないように指導することが鍵になると話した。

 金沢医科大学糖尿病・内分泌内科学の古家大祐教授は、厳格な血糖管理の必要性を指摘し、新しい血糖降下薬のSGLT2阻害薬について解説した。

 厚生労働省国民健康保険課の米丸聡課長補佐は、重症化予防に取り組む市町村ほど交付金がより多く配分される「保険者努力支援制度」のインセンティブ(報奨)を通じ、行政の取り組みを後押ししていることを説明した。

 岡山大学病院新医療研究開発センターの四方賢一教授(県糖尿病対策専門会議会長)は、医療機関が連携する「おかやまDMネット」の体制を紹介。かかりつけ医と専門医が機能を分担し、患者の状態によって切れ目のない治療を提供していることを強調した。

<講演要旨>四方賢一・岡山大学病院新医療研究開発センター教授

 糖尿病の進行、重症化を予防するため、かかりつけ医と専門医が連携する意義と成果について話した四方賢一教授の講演「岡山県における糖尿病の現状と対策 糖尿病性腎症重症化予防に向けて」の要旨を紹介する。

 岡山県の現状は、2013年の推計で、糖尿病患者が約16万人、予備群を含めると30万人ほどと考えられる。地域的には県北西部や県北東部の住民が男女とも比較的血糖値が高い。高齢者の多いことが一因だろう。一方、専門医は県南に偏在している。地域の糖尿病医療を支える人材の養成と、医療連携を進めなければならない。

 岡山県では、行政と県医師会など多くの団体の協力により、12年から「糖尿病等生活習慣病医療連携推進事業」(16年より「糖尿病医療連携推進事業」に改称)を開始した。医療水準の向上と医療連携を進め、県内どこでも安心して糖尿病の治療を受けられるようにするのが目的だ。

 この事業を通じ、糖尿病医療連携ネットワーク(おかやまDMネット)を組織した。糖尿病医療に関わる県内の医療機関を機能別に四つに分類し、登録している。総合管理(かかりつけ医)、専門治療、慢性合併症治療、急性増悪時治療の役割を分担し、医療機関同士で連携を取っている。

 登録機関のかかりつけ医と専門医が互いのメリットを生かし、切れ目のない医療を展開する。機能別に認定を受けた医師と、研修を受講した「おかやま糖尿病サポーター」の看護師、保健師、薬剤師らがチーム医療を推進している。

 参加機関はかかりつけ医334施設、専門治療30施設、慢性合併症治療は歯科も含め478施設、急性増悪時治療19施設。糖尿病サポーターのスタッフは約1700人になった。

 患者が受診しやすいよう、かかりつけ医を紹介するハンドブックを製作した。専用のウェブサイトを設け、糖尿病教育の教材を共有するシステムをつくっている。また、医科と歯科の連携にも取り組み、県医師会、県歯科医師会の協力で医科歯科連携シートを作成した。歯周病を合併する糖尿病患者が歯科を受診する際に活用している。

 事業開始後、県南東部、県南西部と真庭医療圏では、おかやまDMネット内の専門医療機関よりもかかりつけ医を受診する患者の比率が上がっている。医療連携が進んだ成果だと推測できる。

 人口動態統計の糖尿病による死亡率をみると、岡山県は16年から全国平均を下回り、17年は10・0に減っている(全国は11・2)。腎症による新規の透析導入患者も、全国に比べ減少幅が大きい。岡山県の糖尿病患者の予後が改善していると言えると思う。

 腎症の重症化予防に向け、県が策定したプログラムでは、保険者(行政)とかかりつけ医、専門医が連携することを重視している。おかやまDMネットが養成した人材は、これまで治療を中心に活動してきたが、今後は予防にも寄与できるのではないかと考えている。

 しかた・けんいち 京都府出身。岡山大学医学部卒、同大学院医学研究科修了。米ハーバード大学医学部ジョスリン糖尿病センター客員准教授、岡山大学病院腎臓・糖尿病・内分泌内科診療科長などを経て、2010年から岡山大学病院新医療研究開発センター教授。岡山県糖尿病対策専門会議会長、岡山県糖尿病協会会長も務めている。

(2018年09月18日 更新)

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