第5回 肺の生活習慣病―COPDとは―

中田昌男教授

白井亮講師

赤木裕子看護師

千野根勝行副主任理学療法士

息を吐きながら行うストレッチ

息を吸いながら行うストレッチ

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する第5回市民公開講座が9月8日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。テーマは「肺の生活習慣病―COPDとは―」。川崎医科大学と附属病院の専門医らが、肺が炎症を起こして呼吸しにくくなるCOPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)の治療法や日常生活でできるケア、呼吸がスムーズになるストレッチのやり方などを解説した。

タバコは百害あって一利なし

川崎医科大学呼吸器外科学教授・同大学附属病院副院長・呼吸器外科部長
中田昌男


 COPDは「慢性閉塞性肺疾患」を表す総称で、肺気腫や慢性気管支炎などが該当します。喫煙によって肺や気管支に慢性炎症が起こり、咳(せき)や痰(たん)、運動時の息切れといった症状を来します。「たばこ病」あるいは「肺の生活習慣病」とも呼ばれています。

 2018年の喫煙率は男性27・8%、女性8・7%です。全体として減少傾向にありますが、40歳代(男性35・5%、女性13・6%)など一部の世代では依然高い数字になっています。「1日に吸うたばこの本数」×「喫煙年数」で喫煙の程度を表す「喫煙指数」が計算できます。指数が400を超えると重喫煙者と判定され、さまざまな病気にかかる危険性が増すとされています。

 たばこによる病気というと、肺がんやCOPDなど呼吸器の病気を思い浮かべる方が多いと思いますが、胃がん、大腸がん、膵臓(すいぞう)がん、子宮頸(けい)がんといったほかの臓器のがんの危険性も増加します。全身の動脈硬化を引き起こすことから狭心症や脳梗塞のリスクも上がり、糖尿病を起こしやすいことも知られています。ひどい場合には寝たきりにつながります。

 35歳時に喫煙している人は、喫煙していない人よりも寿命が10年短いというデータがあります。たばこは吸う本人だけでなく、その煙が周囲の人たちに悪影響を及ぼす受動喫煙の問題も深刻です。

 最近は電子たばこや加熱式たばこのように、煙の出ない新しいタイプのたばこが登場しています。しかし、それらの新型たばこも紙巻きたばこと同様に有害物質を含んでいることが指摘され、安全性が証明されているものではありません。

 喫煙はかつては嗜好(しこう)として扱われていましたが、現在は「ニコチン依存症」という病気と考えられています。確実に禁煙するためには、医師に相談し適切な薬とカウンセリングによる治療を受けることをお勧めします。当院でも火・金曜日の午後、予約制の禁煙外来を設けています。

 COPDは予防できる病気です。COPDにならないために、あるいは悪化させないために、喫煙者は1日も早く禁煙しましょう。

COPDはどんな病気? 治療は?

川崎医科大学呼吸器内科学講師・同大学附属病院呼吸器内科医長 白井亮

 COPDを診断する際は、スパイロメーターという機器を使って呼吸機能を検査します。空気を目いっぱい吸って一気に吐き出した時、最初の1秒間で何%の空気を吐き出せたかを示す「1秒率」が、COPDの場合は70%未満に低下しています。喫煙歴があり、気道が狭くなるような喘息(ぜんそく)などのほかの疾患が考えられなければ、COPDと診断されます。

 最も重要な治療法は禁煙です。このほかの治療法としては薬物療法と、運動療法や栄養療法などの非薬物療法があります。

 薬物療法の中心は気管支拡張薬です。「抗コリン薬」「β(ベータ)2刺激薬」「メチルキサンチン」と呼ばれる3種類の薬があり、状況に応じて組み合わせて使用します。吸入タイプの薬が最も使われています。また、吸入用ステロイドの「グルココルチコイド」、内服の去痰薬なども用います。

 症状が進み、十分に酸素を取り込めない「低酸素血症」になれば、家庭で持続的に酸素を吸入する在宅酸素療法を行うこともあります。

 わが国では40歳以上の8・6%がCOPDに罹患(りかん)しているとされ、推定患者数は約530万人に上ります。これに対して実際に診断を受けている患者数は約26万人で、診断や治療を受けていない潜在的な患者さんがたくさんいると考えられています。現在喫煙中、あるいは40歳以上で以前喫煙しており、咳や痰、労作時の息切れといった症状がある方、また症状がなくても喫煙歴のある方は、1度医療機関に相談されることをお勧めします。

COPDのケア~明日からできる日常生活の工夫~

川崎医科大学附属病院看護師 赤木裕子

 COPDは慢性の病気です。COPDの増悪を予防して自立した生活を送るためには、医療機関での治療とともに、日常生活で運動療法や栄養療法などのセルフマネジメントを行うことが大切です。

 労作時に息切れがするため、体を動かさないでいると、筋力が低下して、徐々に動けなくなることが予想されます。身体活動性の維持と向上を目指して、散歩や体操などの無理のない程度で運動を心掛けましょう。家事や入浴など家の中で活動的に体を動かすことも大切です。

 COPDになると、健康な人に比べて呼吸をするだけでも多くのエネルギーを消費しますが、食欲が落ちるため、栄養不足になりがちです。食事の際は油をうまく取り入れたり、肉や魚を食べたりして、高カロリー・高タンパク食を主体に十分なエネルギーを摂取するよう工夫してください。

 COPDを悪化させないためには、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンを接種するなど感染症予防にも注意が必要です。

 早期発見・早期治療が重要です。安静にしていてもいつもより呼吸が苦しい、発熱がある、咳や痰が増えた―といった症状は悪化の“前兆”です。早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。

呼吸リハビリテーションで若返れ!肺年齢~健やかな呼吸法とCOPDのお話~

川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター副主任理学療法士 千野根勝行

 呼吸は健康づくりの基本です。しかし最近はパソコンや携帯電話を操作する際の姿勢の悪化で、いわゆる猫背の人が目立つようになり、ストレスによる浅い呼吸の人も増えているといわれます。

 呼吸する際は、鼻から▽ゆっくり▽吐くことから―が3大原則です。深い呼吸を習慣化すれば姿勢がよくなり、“肺年齢”を実年齢より若く維持することが可能です。深い呼吸をすると自律神経の働きがよくなることも確認されています。

 呼吸するために使う筋肉のストレッチを1日3~5回を目安に行えば、息切れを和らげることにも役立ちます。

息を吐きながら行うストレッチ

(1)両手を腰の後ろで組む

(2)口をすぼめてゆっくりと息を吐きながら、胸を開くようにして両腕を床の方に伸ばしていく

(3)伸ばしきったら、鼻からゆっくりと息を吸いながら元の姿勢に戻す

息を吸いながら行うストレッチ

(1)両手を胸の前で組む

(2)口をすぼめてゆっくりと息を吐き切る。鼻から息を吸いながら背中を丸めるようにして両腕を前に伸ばしていく

(3)伸ばしきったら、ゆっくりと息を吐きながら元の姿勢に戻す

(2018年10月01日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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