ホウ素薬剤を効率的にがん細胞へ 岡山大医療センターが新技術開発

 岡山大中性子医療研究センターは2日、中性子線を使ったがん治療法「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」に使われるホウ素薬剤を、がん細胞に効率良く取り込ませる技術を開発したと発表した。動物実験などで効果を確認しており、実用化に向けて同日、バイオベンチャーのスリー・ディー・マトリックス(東京)と共同研究契約を結んだ。

 BNCTで一般的に使われるホウ素薬剤は、がん細胞に取り込まれやすい特性があるが、一つの分子にホウ素原子が1個しかないため、中性子線を照射した際にがん細胞を破壊する効率が低い。大量のホウ素薬剤を点滴投与する必要もあり、患者への負担が指摘されている。

 このため、同センターはホウ素原子を12個持つ別の既存薬剤に着目。がん細胞に取り込まれないという薬剤の課題克服に向け、米国で開発され、化合物を運ぶ能力を持つペプチド(アミノ酸の複合体)をス社から提供を受けて混ぜ合わせ、効果を調べた。

 マウスにヒトの脳腫瘍を移植して薬剤とペプチドの混合物を投与すると、腫瘍細胞内に取り込まれた。ヒトのがんに由来する培養細胞を使った実験では、混合物を投与して中性子線を当てるとがん細胞の生存率が2%未満になったことなどから、BNCT向けの薬剤になり得ると結論付けた。

 細胞内に特定のタンパク質がつくられている場合に混合物が取り込まれたことから、同タンパク質が確認できる脳腫瘍や口(こう)腔(くう)がんなどの治療に使える可能性があるという。特許出願中。

 同センターとス社は今後、混合物を使った動物での安全性・毒性試験や、実施に必要な資金調達などを進める。同センターの古矢修一副センター長は「早ければ4~5年後に臨床試験を始めたい」と話している。

 ホウ素中性子捕捉療法(BNCT) がん細胞にホウ素薬剤を取り込ませて中性子線を照射し、発生するアルファ線とリチウム粒子でがん細胞を破壊する。岡山大は2017年4月、新たなホウ素薬剤の開発などを目指して中性子医療研究センターを設置。南東北BNCT研究センター(福島県郡山市)などが中性子ビームを発生させる小型加速器を使った臨床試験を進めている。

(2018年11月02日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

カテゴリー

関連病院

PAGE TOP