第6回介護予防―はつらつとした老後をおくるために―

小池将文学長

三宅美智子講師

河邉聡子准教授

辻真美准教授

椅子からの立ち上がりが困難な人を介助する方法の実演も行われた

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する第6回市民公開講座が10月13日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。テーマは「介護予防―はつらつとした老後をおくるために」。川崎医療短期大学の小池将文学長らの講師陣が、加齢とともに心身の活力が低下し生活機能が損なわれてしまう「フレイル(虚弱)」の予防法や、介護福祉士の役割などについて解説した。

介護保障の歩み
川崎医療短期大学学長 小池将文


 今回のテーマは「介護予防」です。最近、介護の世界でよく聞かれる「フレイル」という用語を切り口に、人生100年時代を迎え、老後を元気で過ごすための方法を考えていきたいと思います。

 ヒトは長命化しています。現在100歳以上の人口は約7万人。毎年数千人ずつ増えています。高齢化率は現在約28%で、50年にはおよそ4割に達すると推計されています。日本は世界の中でも最も高齢化が進んだ国です。

 高齢化に伴い、介護に注目が集まるようになりました。1950年代から80年代は介護は家族の役割で、その中心を妻や娘など女性が担ってきました。しかし、90年代以降になって「介護心中」や「介護離職」の言葉がマスコミで使われるなど、大きな社会問題となりました。その背景には、介護需要の増大、介護の重度化・長期化、介護者の高齢化などが挙げられます。

 こうした時代のニーズに応える形で2000年に介護保険法が施行されました。介護の「社会化」が制度化されたわけです。その後、制度の持続可能性を保っていくために保険料や介護サービスの見直し、施設から地域包括ケアへの移行などさまざまな改革が進められてきました。今も介護人材確保の方策などが検討されています。

 そうした中、残された人生をいかに過ごし、どういう形で最後を閉じるのかが大きな課題となっています。介護が必要になってしまうと、地域の中ではつらつとした老後を送るのは難しくなってきます。そして、その要介護になる手前の状態が、筋力や心身の活力が低下してしまうフレイルなのです。皆さんもフレイルに陥らないよう、しっかり学んでください。

フレイルにならないための生活習慣
川崎医療短期大学医療介護福祉科講師 三宅美智子


 「フレイル」は健康と要介護の中間の状態として、2014年に日本老年医学会が提唱しました。多くの高齢者は健康な状態から、筋力が落ちる「サルコペニア」を経て、生活機能が全般に衰える「フレイル」となり、徐々に要介護状態に移行します。ただし、早期に対応すれば、元の健康な状態に戻る可能性があります。

 筋肉が減ってくると、運動や外出がおっくうになり、転びやすくなります。硬いものが食べにくくなることもあります。手足だけでなく口も含めた体全体の筋力が衰えるからです。食が進まなければさらに筋肉が減る悪循環に陥り、要介護状態となってしまいます。「しっかりかんで、しっかり食べる」「運動する」「社会とのつながりを持つ」ことが大切です。

 フレイルは人によって現れ方が違います。低栄養や運動不足による「身体的フレイル」▽うつや認知機能の低下による「精神的フレイル」▽閉じこもりや困窮などの「社会的フレイル」―という三つの形態があります。とりわけ、定年退職や、趣味の教室をやめたことなどがきっかけとなる「社会的フレイル」は、社会性の弱さや身体機能、認知機能の低下などとあいまって、外出もできなくなる負の連鎖を招きます。

 フレイルには前兆があります。「疲れやすくなった」「食べたいものがない」「人に会うのが面倒」といった兆しに早く気づくことが重要です。40代、50代のうちから意識して、地域のサークルに加入したり、メール友達をつくったり、さまざまなことに興味を持ち、好奇心を失わないよう心掛けましょう。

 フレイルはまだ健康な状態に戻ることができる時期です。生活習慣を見直し、人とのつながりを大事にしてください。

栄養改善からフレイル予防
川崎医療短期大学医療介護福祉科准教授 河邉聡子


 フレイル予防には栄養改善が欠かせません。食と口腔(こうくう)機能に着目したフレイルのことを「オーラルフレイル」と言います。

 人と接する機会が減ると、口の健康への関心も薄くなり、歯周病や残存する歯の数が減るなどの兆候が現れます。かめない食品が増え、滑舌(かつぜつ)が悪くなり、食べこぼしが増えます。放置すると口腔内の不潔や乾燥を招き、かみ合わせに関わる舌や口の周りの筋肉もよく動かなくなります。

 これらにより栄養状態が悪化し、フレイルは重度化します。進行すると摂食や嚥下(えんげ)機能の低下、咀嚼(そしゃく)機能不全が生じ、要介護状態になります。

 進行をくい止めるには、口のささいなトラブルに早く気づいて対応することが大切です。そのためには口腔内を健康に保つとともに、栄養改善が必要です。

 食欲が低下すると食事量が減り、エネルギーが不足し、栄養バランスも悪くなります。歯の本数が少なくなれば軟らかい食品を好むようになり、結果的にご飯や麺類といった炭水化物の摂取が増え、肉や魚、根菜類などによるタンパク質、食物繊維の摂取が減ります。味覚が鈍ると味付けが濃くなりがちで、塩分をとりすぎれば高血圧が心配です。むせてしまうために水分補給を減らすと、脱水状態になることもあります。

 食事の基本は、まず自分の体格を認識し、適切な栄養量の食事を摂取することです。標準体重を確認して1日に摂取すべきエネルギー量を知りましょう。それをもとにバランスの良い食事、特に体をつくるタンパク質の摂取を心掛けてください。

人生をかがやかせる介護福祉士
川崎医療短期大学医療介護福祉科准教授 辻真美


 介護福祉士は高齢者や体の不自由な方、認知症の方々を介護する国家資格の専門職です。食事や入浴、排せつ、車いすの移動など身体介護のみならず、心のケアや医療的ケア、介護する家族への助言も行います。利用者の命や主体性ある生活を下支えし、介護サービスの中心となる重要な存在です。

 介護は自立へ向けての働きかけが大切です。過度な介入はせず、利用者の今ある能力を引き出して維持し、自信を取り戻してもらえるよう心掛けています。

 介護福祉士が利用者の運動機能面で注目するのは、歩き方や動作がゆっくりになった▽手すりや壁を伝って階段を上るようになった▽つまずくことが増えた▽下半身やおなかのむくみ▽寝て過ごす時間が長くなった―などです。会話したり体に触れたりする中で、体調の小さな変化、違和感を敏感に察知し、医師やケアマネジャーと協力して早期対応につなげます。

 もう一つ気になるのは認知症です。同じことを何度も繰り返し質問する利用者がいます。本人も気づいているのですが、「私、大丈夫よね」という不安から、何度も問いかけるのです。医療ともしっかり連携しています。いい薬が出ており、認知症の進行を遅らせることもできるようになっています。

 介護福祉士の使命は、必要とする人に適切な介護を提供し、本人が望む場所で最後まで日常生活を継続できるように支えることです。これからますます進行する長寿社会の中、誰もがなり得る身体機能の低下や認知症に対し、みんなが関心を持って理解に努めることが大切です。

(2018年11月05日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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