(4)多血症について 岡山ろうさい病院内科部長 朝倉昇司

朝倉昇司内科部長

 多血症(赤血球増加症)は血液中の赤血球数やヘモグロビン値、ヘマトクリット値が増加している状態を指します。血液の粘稠(ねんちゅう)度(粘り気)が高まり、血管内で血流障害が起こりやすくなるために、頭痛やめまい、耳鳴りなどの症状が出ることがあります。放置すると、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な疾患につながる可能性もあります。さまざまな多血症の原因と対処法についてお話しします。

 ●相対的多血症と絶対的多血症とは

 血液の成分は赤血球・白血球・血小板といった「血球」と、それ以外の「血漿(けっしょう)」に大別されます。多血症には、さまざまな要因によって血漿が減少し、見かけ上の赤血球濃度が上昇する「相対的多血症」と、血球自体が増加する「絶対的多血症」があります(「多血症の分類」参照)。

 ●相対的多血症

 働き盛りの中年男性にみられる多血症の代表が「ストレス性多血症」です。その多くが高血圧・高脂血症・高尿酸血症・喫煙習慣・飲酒・肥満などが基礎になっています。高血圧・高脂血症・高尿酸血症などを適切にコントロールし、禁煙や飲酒量の制限など生活習慣を改善することにより、軽快する場合も多くみられます。

 また、下痢や嘔吐(おうと)、熱中症などによる脱水状態では、血漿が減少して血液が濃縮するため、見かけ上の赤血球濃度が上昇し、多血症を呈することがあります。この場合は通常、水分摂取や輸液により速やかに改善します。

 ●絶対的多血症

 絶対的多血症には、骨髄増殖性腫瘍と呼ばれる「真性多血症」と、それ以外の疾患により二次的に赤血球が増加する「二次性多血症」があります。

 【二次性多血症】

 一般的にヒトの体内で低酸素状態が感知されると、組織への酸素供給を高めるために、生体は酸素運搬の担い手である赤血球を増やそうとします。このとき赤血球の増殖を促す造血因子であるエリスロポイエチンの産生が上昇します。したがって、慢性肺疾患や先天性心疾患、睡眠時無呼吸症候群といった血液中の酸素濃度が低下するような疾患があると、エリスロポイエチン産生が高まり、二次的に多血症となる場合があります。

 また、腫瘍によってエリスロポイエチンが体内で異常につくられる状態(エリスロポイエチン産生腫瘍)で、二次的に多血症となる場合があります。多血症でエリスロポイエチンが上昇している場合は検査を行い、原因となる疾患を確認することが重要です。

 【真性多血症】

 真性多血症は、造血幹細胞(すべての血液細胞のもとになる細胞)の異常によって赤血球が過剰につくられる疾患で、骨髄増殖性腫瘍と呼ばれる腫瘍性疾患の一つです。JAK2という遺伝子の変異が起こることで、指示なく勝手に赤血球が増殖します(「真性多血症が起こる仕組み」参照)。

 治療としては、従来から血液を体外へ抜き取る「瀉血(しゃけつ)療法」や造血を抑える抗腫瘍薬の内服療法などが行われてきましたが、近年、JAK2の働きを阻害することで選択的に赤血球増殖を抑制する薬剤が承認され、治療の選択肢が広がっています。

 働き盛りの方々にしばしばみられる血液異常として、多血症について説明しました。血液に関して気になることがありましたら、当院へご相談ください。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 あさくら・しょうじ 岡山操山高校、香川医科大学(現香川大学)医学部卒。岡山大学血液・腫瘍・呼吸器・アレルギー内科(第二内科)に入局し、香川労災病院、亀田総合病院、愛知県がんセンター病院、国立病院機構岡山医療センターを経て2015年から岡山ろうさい病院に勤務。日本血液学会血液専門医、日本内科学会総合内科専門医・指導医。医学博士。

(2018年11月05日 更新)

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