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第2回 肝がん(外科手術) 岡山済生会総合病院 三村哲重副院長 予備力に応じ治療選択 再発早期なら再手術も

 みむら・てつしげ 岡山大卒。済生会西条病院(愛媛県西条市)勤務を経て、1989年から岡山済生会総合病院でメスを執る。日本肝胆膵(かんたんすい)外科学会高度技能指導医。

肝障害度と肝がん治療(表)

 肝細胞ががん化する原発性肝細胞がん(以下肝がん)の治療法は近年、大きく進歩してきたが、手術で 腫瘍 ( しゅよう ) と周囲の組織を取り除く肝切除は主役であり続けている。20年の経験を持つ三村哲重・岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町)副院長(消化器外科)に、肝切除の安全性や再発への対応を尋ねた。

 ―さまざまな肝がんの治療選択肢がありますが、肝切除の適応と考えられるのはどんなケースでしょうか。

 肝がん治療は肝切除、ラジオ波 焼灼 ( しょうしゃく ) 法(局所療法)、肝動脈化学 塞栓 ( そくせん ) 療法(TACE)、肝移植の4本柱です。肝切除を手がけて20年くらいになりますが、安定した手術法が確立してきました。

 肝がんの特徴として、多くはB型・C型のウイルス性肝炎から肝硬変になった時点でがんが発生します。障害を受けた肝臓を切り取れば、さらに肝機能低下を招く危険があります。再生能力(予備力)が十分あれば、少々大きく取っても再生する力が残っていますが、障害が進んでくると予備力が落ちて肝不全に陥るリスクが高まります。肝障害度と腫瘍進行度の両方を考えて治療法を選ばなければなりません。

 予備力が十分あって腫瘍が1個の場合は切除手術を受けるべきです。腫瘍が2、3個で最大径3センチ以内の場合は切除かラジオ波かいずれかを選択すればよいでしょう。同じ個数で3センチを超える場合は切除かTACEをお勧めします。根治する、腫瘍をきれいに取り去る点で、切除に勝る治療法はありません。

 ―腫瘍の個数・大きさとともに肝予備力をみるのが重要だということですが、どんな検査をするのですか。

 ICG(インドシアニングリーン)という色素の 排泄 ( はいせつ ) 検査が予備力を反映するとされてきましたが、私たちはICGに代えてアシアロシンチグラフィーという核医学を利用した検査法を取り入れています。アシアロシンチは肝細胞のアシアロ糖タンパク受容体が放射能で標識をつけた薬剤を取り込む様子から、全体の肝臓の力をみることができます。大きな腫瘍で半分くらい肝臓を切り取るとき、残す部分の肝予備力を正確に予測できるのが利点です。肝臓を取りすぎたための肝不全はほとんど防げるようになり、安心して手術できるようになりました。

 ―切除が成功してもがんが再発する危険がありますね。再発にはどう対応していらっしゃいますか。

 過去約800例の肝切除をしてきましたが、5年以内に7割強の患者さんが再発してしまいます。肝がんは再発率が高いのが特徴です。ウイルス性肝炎は抗ウイルス治療で治ったとしても、肝臓全体が発がん性を持ってしまうと言われています。術後2カ月ごとに腫瘍マーカー、4カ月ごとにCT(コンピューター断層撮影)かMRI(磁気共鳴画像装置)でチェックします。

 ―できるだけ早い段階で再発を見つけることが大切なんですね。

 再発が分かってもあきらめないでください。早期がん(2センチ以内)の場合、初発と再発の治療成績はほとんど同じです。初回の肝切除で予備力があまり落ちていなければ再手術が可能です。切除後5年生存率は60%くらい、10年生存率は38%ですが、再発を早期発見すればかなりの方が元気でおられる時代になってきました。

 術後の抗ウイルス治療が再発を抑えるというエビデンス(科学的根拠)は得られていませんが、ウイルスが消えてしまえば肝硬変は進まないということが明らかになってきました。予備力を温存しておくため、治療を受けるべきでしょう。

 ―これからの目標を教えてください。

 完全に腫瘍を取りながら、体の侵襲(手術などに伴う痛み)をできるだけ小さく、早く治すことを追求していきます。術前の画像診断でここまで切ると計画を立て、その計画通りに運ぶのが正しい手術、安心できる手術だろうと思います。患者さん一人一人で肝臓の形も脈管の走行も違いますから、症例を積み重ね、頭の中でうまく組み立てられるようにならなければいけません。肝臓がん手術ができる若い外科医を育てていき、患者さんとともにがんと闘い続けます。


診療ガイドライン

 日本肝 癌 ( がん ) 研究会を中心とする研究班は2005年、肝障害度と腫瘍の個数・大きさに応じて推奨される治療選択肢をまとめたガイドラインを作成した。

 肝障害度は2項目以上該当する障害度の重い方(Bが3項目、Cが2項目ならC)と判定される。

 肝切除手術の対象となるのは肝障害度がAまたはBで腫瘍数が3個まで。特にAで単発ならば切除が優先的に推奨される。肝臓に針を刺して治療する局所療法として、従来はアルコールを注射する経皮的エタノール注入法(PEIT)が行われてきたが、電磁波(ラジオ波)で高熱を発した針で腫瘍を 壊死 ( えし ) させるラジオ波焼灼法(RFA)が普及し、選択肢となっている。

 進行した肝がんには、肝動脈塞栓療法(TAE)が検討される。がん細胞が栄養を取り込む肝動脈に細かなゼラチンスポンジを詰めてふさぎ、がんを兵糧攻めにする。抗がん剤と造影剤を混ぜて注入する肝動注化学療法は、TAEと併用する肝動脈化学塞栓療法(TACE)としてしばしば行われる。

 肝移植は肝障害度がCに悪化し、腫瘍数が3個以内かつ最大径3センチ以内(単発例では5センチ以内)の場合に検討対象とされる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年01月18日 更新)

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