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3 カエル腹 腹水たまり 体重が急増

出動する岡山市消防局の救急車。硬膜外膿瘍の発症時には救急搬送してもらい緊急手術を受けた

 毎朝、体重計に乗るのがいやになってきた。 混沌 ( こんとん ) とした参院選の情勢分析に連日の紙面が割かれていた二〇〇七年七月、備前支局(備前市東片上)に赴任していた私は浮かない顔ばかり。

 五月初めは八〇キロ前後だったのに、六月下旬に九〇キロを超え、参院選投票日の七月二十九日にはついに一〇〇キロを突破した。ふくらし粉でも飲んだのか、と言われそうなくらいのカエル腹。ウエスト一〇〇センチのズボンがはけなくなり、両足も丸太のようにむくんだ。

 上を向いても横を向いても苦しくて眠れない。開票速報を送信しようと備前市選管(市庁舎三階)へ階段を上るのに、手すりにすがって息を切らした。

 一日一六〇〇キロカロリーを目標に、せっせとダイエットに励んでいたのにこのありさま。「いったい何が失敗してるんだろう?」。頭の中はクエスチョンマークでいっぱい。おなかが腹水でいっぱいだとは思ってもみなかった。

 腹水の本来の役割は潤滑油。内臓同士が擦れ合って傷つかないよう保護している。健康な人はコップ半分に満たない数十ミリリットルあれば十分。内臓を包む腹膜のひだひだは全身の皮膚と同等の畳一畳分もの表面積を持ち、網の目のように走る毛細血管が腹水の放出と吸収をコントロールし、一定量に保っている。

 収支バランスが崩れると腹水がたまり始める。原因となる疾患はいろいろあるが、医師が真っ先に疑うのは肝臓。水分を血管に引き込む血中タンパク質のアルブミンは肝臓でつくられる。肝臓に異変が生じるとアルブミンが減少し、腹水となって現れてくる。肝臓の発する「赤信号」というわけだ。

 その我慢強さから、しばしば「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓。私の場合も腹水がパンパンにたまるまで、ほとんど自覚症状はなかった。疑問だらけのまま八月八日、転がるように岡山労災病院(岡山市南区築港緑町)へ駆け込んだ。

 実は肝臓がダウンするまでに伏線がある。一年前の〇六年八月、私はストレッチャーに乗り、救急車で同病院に搬送された。「硬膜外 膿瘍 ( のうよう ) 」という難しい病名だった。 脊髄 ( せきずい ) を覆う膜の外側まで侵入した細菌が炎症を起こし、たまった 膿 ( うみ ) が脊髄を圧迫。一晩のうちに両足がへなへなと 萎 ( な ) えて 麻痺 ( まひ ) し、立てなくなったのだ。

 背中を切り開いて膿をかき出す緊急手術を受けた。映画「バッテリー」のロケで備前市に滞在していた滝田洋二郎監督をインタビューした翌日のこと。監督は今年、「おくりびと」でオスカー像を手にしたが、私は三年前の時点でおくられていても不思議ではなかった。


メモ

 バッテリー 美作市在住の作家あさのあつこさんの同名小説が原作。ほぼ全編が岡山県内で撮影され、2007年3月に公開された。備前市では総合運動公園(同市久々井)の野球場がロケ地に選ばれ、主人公原田巧とライバル門脇秀吾が対戦するシーンなどが収録されている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年04月27日 更新)

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