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第11回 膀胱がん 松田病院 森岡政明診療部長 再発防ぐ術後ケア大切 定期的に内視鏡検査を

 もりおか・まさあき 1974年岡山大医学部卒。高知医大(現高知大医学部)、川崎医大で泌尿器科准教授を務め、2002年12月から現職。高知市出身。60歳。

【図1】膀胱がんのタイプ

【図2】膀胱がんの臨床病期と治療

 特に男性の発症が多く、加齢とともに増加傾向にある 膀胱 ( ぼうこう ) がん。多くの場合で機能を温存したままでの治癒が期待できるものの、再発する可能性が高いのが難点。どうすれば予防できるのか。松田病院(倉敷市鶴形)の森岡政明診療部長(泌尿器科)に治療のポイントを聞いた。

 ―カリフラワーかイソギンチャクのように表面がぶつぶつした表在がんでは内視鏡によって病巣を切除する治療が定着していますが、術後に再発する場合が多いと聞きます。患者にとってはかなりの不安材料です。

 もちろん、それぞれの患者さんで状態は異なりますが、残念ながらその傾向が強いことは否定できません。このがんは膀胱内に多発し、再発する可能性が常にあります。

 それも1年以内の再発が多いのです。

 当院のここ数年の手術実績を見ても新たに発生した症例は年間15~25件ですが、再発による手術もほぼ同数あります。1年に2、3回受ける患者さんも珍しくありません。

 また、膀胱を全部摘出した場合でも、腎臓につながる尿管など同じ性質の粘膜が覆っている部位に再発するリスクがあります。

 ―なぜ、1度治療してもしつこく再発するのでしょう。

 明確な答えはまだ出ていませんが、肉眼では見えないような小さながん組織やがんになる前の病変が膀胱内に数多く潜んでいるためではないかと考えられます。1カ所で見つかれば他の場所でもかなりの確率で発症するだろうというわけです。

 再発しやすいケースは大きく分けて三つ。一つは 腫瘍 ( しゅよう ) が2個以上多発している場合。二つ目は発見が遅れて腫瘍が大きくなったとき。そして異型度も関係してきます。

 異型度というのは細胞の形態や並び方の異常のことで、そのがんが広がりやすいかどうか、転移しやすいかどうかを示す指標となります。グレードが高くなればがん細胞が増殖していくスピードが速くなります。

 他では粘膜にはりついている上皮内がんが“くせ者”ですね。併発していても発見しづらいため、他臓器に転移しやすい 浸潤 ( しんじゅん ) がんになることもあります。

 ―予防する手だてはないのですか。

 悪性度の高い表在がんや上皮内がんと思われるときは術前に正常にみえる周辺の粘膜も一部採取(5、6カ所)して顕微鏡で検査します。

 このほか、術後にBCG(ウシ型弱毒結核菌)と呼ばれる結核予防薬や抗がん剤のMMC(マイトマイシン)を膀胱内に注入する化学療法が一般的です。この治療は外来ででき、当院では週に1度の注入を6回行います。

 さらに近年では再発予防のために内視鏡で病巣を切除した直後にMMCを注入するところが増えています。

 ―退院してからはどんな点に気をつければいいのでしょうか。

 膀胱がんは治りやすいがんの一つと言われていますが、それはあくまでも術後のフォローアップをしっかりやっての話です。致命的になることはまれな表在がんでも、ときに再発を繰り返す過程で浸潤がんに性質が変わっていく場合がありますから注意が必要です。

 手術したからといって決して油断せず、検尿だけでなく定期的な内視鏡検査をぜひ受けてください。再発防止には細心のケアが欠かせません。

 ―治療の最前線では他にどんな動きがありますか。

 内視鏡治療の分野では医療器具の進歩でしょうか。最新の電気メスは人体に電流が貫通しないため、ペースメーカーを入れている人への影響もほとんどなく、手術の際、周辺の閉鎖神経にトラブルを起こすこともほとんどなくなりました。

 また、全摘手術だけでは治療効果に限界がある浸潤がんに対する抗がん剤療法も進歩しており、これまで肺がんや 膵臓 ( すいぞう ) がん治療に使用していた塩酸ゲムシタビンという薬剤が最近になって新たに保険適用となりました。

 ―最後に病と付き合う上での要所を。

 膀胱がんについては悲観しすぎることも楽観しすぎることも禁物です。病気を正しく知り、正しく恐れるためにはお互いにじっくり話し合って治療方針を決めていくことが大切ですね。



病のあらまし

 それほど頻度の高いがんではないが、高齢化などを背景に増えつつある。自覚症状がないのに突然おしっこに血が混じったら要注意。50歳以上から 罹患 ( りかん ) 率が高くなり、男性が女性の4倍を占める。科学調査により喫煙が危険因子であることが明らかになっている。

 膀胱壁は内側から粘膜上皮、粘膜下層、筋層からなり、その外側は脂肪でくるまれている。粘膜下層までにとどまっているおとなしいタイプを「表在がん」、筋層まで深く食い込んだ悪性度の高いタイプを「浸潤がん」と呼ぶ=図1

 患者の約7割を占める表在がんは転移することはまれで、大腸がんや胃がんと同様に比較的治りやすいがんだが、病巣が周囲に広がりやすい浸潤がんは難治性と言われる肺がんにも匹敵する。

 もう一つ、致命的になるケースの少ない表在がんの中でも、粘膜上皮にカビがはえるように平べったく広がる頑固な「上皮内がん」は例外。悪性度が高いため、そのまま放置しておくと浸潤がんになることが多い。

 タイプによって性質が大きく異なる膀胱がん。その治療法は、がんの進行程度を示す病期(最も早期の0~Ⅳ期)と、がん細胞の形や大きさなどによって決まってくる=図2

 初期の表在がんでは電気メス付きの内視鏡を尿道から入れてがん組織を切除する方法(経尿道的膀胱腫瘍切除術)が浸透、浸潤がんの場合は開腹して膀胱全体を取り除く。

 全摘の際は尿の通る道を新たに設ける尿路変更手術が必要になるほか、手術だけでは治療に限界があると思われるケースでは抗がん剤治療と組み合わせて予後の改善を目指す。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月29日 更新)

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