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11 外傷(擦り傷、切り傷、かみ傷) 細菌感染に気をつける

 六歳の男児。隣近所の飼い犬と遊んでいて、突然怒り出した犬に右腕をかまれてしまいました。泣き泣き家に帰ってきた子どもの傷をお母さんが見たところ、出血は止まっており傷も小さいので救急ばんそうこうを張っておきました。飼い主に狂犬病の予防接種について尋ねてみると受けているとのことで安心して様子を見ることにしました。ところが翌日になり傷の痛みが強くなり赤みも出てきたため心配になり病院の救急センターを受診しました。

   ◇   ◇

 このお子さんは、犬にかまれた傷に細菌感染が起こり 化膿 ( かのう ) したため、痛みや発赤などの症状が増しました。放置すると重篤になりますので、受診はよい判断でしたが、かみ傷は受傷後すぐ受診されていればもっとよかったと思います。

 受診時には傷の表面がふさがりかけていました。局所麻酔し傷口を開けると、深さは一センチ程度で中に犬の毛が残っており、感染を起こして少量の 膿 ( うみ ) が見られました。生理食塩水で洗浄しガーゼを傷の中に入れ膿がたまらないようにしました。しばらく抗生物質を内服してもらうことにし、破傷風トキソイドも接種しました。

 切り傷、擦り傷、かみ傷といった傷の応急処置として、まず出血に対しては圧迫止血を行います。切り傷の場合は結構出血するので慌てがちですが、落ち着いて傷口を圧迫してください。

 次に傷から細菌が侵入しますと感染が起きますので、傷を洗浄します。水道水でも構いません。消毒薬は使用してもよいですが、傷口の中への使用は勧められません。細胞障害を起こし、治癒を遅らせてしまいます。応急処置後はきれいなガーゼで保護しましょう。

 切り傷は深いと縫合が必要となるのですぐ医療機関にかかりましょう。深さによっては、神経や 腱 ( けん ) を損傷していることもあり注意が必要です。

 擦り傷は細菌感染が起きやすく、治療法を誤ると治癒に時間がかかります。十分洗浄し細菌感染から守ります。乾燥は大敵なので軟こうを塗ったり皮膚保護剤を張ります。前述のように消毒薬は治癒を妨げますので周囲に使っても傷そのものに使用すべきではありません。応急処置後は医療機関で治療方針を確認するのがよいでしょう。

 切り傷、擦り傷とも、きれいな傷には処置が早ければ必ずしも抗生剤を必要としませんが、時間がたっている場合には抗生剤を使用することが多いです。

 動物のかみ傷は特に感染への注意が必要です。見た目より深いことが多く、毛や土などが入っていることもあるので十分洗浄します。時には局所麻酔し傷の中を洗ったり組織を切除します。縫合すると感染することがあるので行わないことが多く、細菌感染を抑えるため抗生剤も必要です。

 注意を要する細菌感染に、破傷風があります。予防接種が三回完了していない人、最後の接種から数年経過している人は破傷風トキソイドを接種します。

 犬の場合、狂犬病が心配かもしれませんが、近年国内で発生しておらず、基本的にワクチン接種はしません。猫にかまれたときは「猫ひっかき病」で局所のリンパ節が腫れ、抗生剤による治療や切開が必要なこともあります。毒ヘビの場合、抗毒素血清を必要とすることもあり入院治療が必要です。

 以上、日常よく見られる外傷の要点を記しました。傷が赤くなったり腫れてきた場合には医療機関を受診しましょう。かみ傷は浅くても受診するのがよいと思われます。

 (佐野薫・倉敷中央病院外科部長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年12月24日 更新)

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