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20 嘔吐 すぐに飲み物を与えない

 三歳の男児。夜中から急に 嘔吐 ( おうと ) が始まりました。昨日までは元気で、寒い中、外で元気に遊び、夕食も普通通りに食べていました。熱を測ってみると三七・五度でした。昨日の朝は普通の便でしたが、以後排便はありません。嘔吐後すぐにのどが渇いた様子でお茶を欲しがったので、飲ませたところまた嘔吐しました。その後も立て続けに嘔吐し、ぐったりしてきたため小児科を受診しました。

  ◇   ◇

 嘔吐は小児期にみられる一般的な症状です。多くは一般的な風邪と同様にウイルスの感染による急性胃腸炎です。しかし、腸重積・急性虫垂炎など緊急を要する消化器疾患、髄膜炎・脳炎・頭部外傷などの中枢性疾患、アセトン血性嘔吐症や心因的嘔吐などその原因は多岐にわたります。また、乳児期、幼児期、学童期などの年代によっても原因となる疾病が異なり、私たち小児科医が頭を悩ます症状の一つです。

 この男の子は、診察ではおなかの音がごろごろと高進していましたが、おなかを触っても痛がらず、 腫瘤 ( しゅりゅう ) も触りませんでした。便の様子が分からなかったので、かん腸して確認させてもらいましたが、やや軟便で血液や粘液の混入はありませんでした。真冬の寒い時期で周囲の流行状況から、この子の場合もウイルス性の急性胃腸炎を疑いました。

 まず吐き気止めの 坐薬 ( ざやく ) を使い、三十分ほど経過してから少しずつ乳幼児用のイオン飲料を飲んでもらったところ、嘔吐することなく元気が出てきました。のみ薬の吐き気止めを処方して、二日後に外来で再度経過をみさせてもらいましたが、すっかり元気になっており、やはりウイルス性の急性胃腸炎と考えました。

 吐き気止めの坐薬を挿入して三十分待ってから飲んでもらったのは、薬の効果が出るのを待つ意味と、おなかを休める両方の意味があります。

 子どもが欲しそうにしたからとか、脱水が心配だったからという理由で、嘔吐の後すぐに飲ませるお母さんが大勢いらっしゃいますが、これは逆効果です。自分が嘔吐したときのことを考えてみてください。口をうがいすることはあっても、すぐに飲もうとは思わないはずです。おなかを休めてから、少しずつ飲むのではないかと思います。お子さんも同じです。

 軽症の胃腸炎ならば、嘔吐が認められた後に、しばらくおなかを休めて、その後乳幼児用のイオン飲料や市販されているスポーツ飲料を少しずつ飲ませてあげれば、それだけで軽快することもあります。

 このような処置をしても何回も嘔吐を繰り返す場合、激しい腹痛や頭痛を伴う場合、便に血液が混じった場合、無表情でうとうとしている場合等はすぐ受診してください。腸重積症、急性虫垂炎、髄膜炎や脳炎といったすぐに処置が必要な病気の可能性があります。

 下痢を伴っているときは、特におしっこの出方や唇が乾いているかどうかにも注意をしてください。脱水が進んでいる目安になります。脱水が進むと点滴による治療が必要な場合もあり、やはり早めの受診が必要です。

 (横山裕司・岡山済生会総合病院小児科主任医長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年03月18日 更新)

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