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第15回 おおもと病院 胃がん 磯崎博司副院長 術中診断で切除を少なく

胃がんのレントゲン写真を見る磯崎副院長

 岡山大医学部助教授時代に、胃がんで世界初めて、センチネルリンパ節の手術中診断によって切除範囲を決める手術法を共同研究。その成果が認められ二〇〇六年、日本胃 癌 ( がん ) 学会西記念賞を受賞した。

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胃がんは胃の周囲にあるリンパ節転移の判断が難しいことから、広く切除してきた。しかし、胃の出口「幽門」は切除されると小腸への急な流出で、冷や汗、めまいといったダンピング症候群が起きる。胃液の逆流を防ぐ入り口「噴門」や迷走神経を切除すると、逆流性食道炎で胸やけ、下痢を起こすなど日常生活に影響が出る。

 そこで、がんが最初に転移するセンチネルリンパ節を手術中に診断することで、切除範囲をできるだけ少なくし、噴門や幽門、神経系を温存する方法を生み出した。

 対象は早期胃がん。開腹の一方、内視鏡を挿入して病巣周囲に色素を注入、染色されたセンチネルリンパ節を病理診断する。転移の有無によって切除範囲が決まる。

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 最近増えているスキルス胃がん(Ⅳ型=びまん浸潤型)にも対応している。このがんは、粘膜の病巣が小さいうちに粘膜の下層に入り、深い層に広がる。「胃壁の硬化が特徴。病巣と周囲の粘膜の境界が不 明瞭 ( めいりょう ) 」で、早期発見が難しい。腹膜 播種 ( はしゅ ) 性転移や遠隔リンパ節転移がみられ、予後がよくないとされる。

 これに対し、「左上腹部内臓全摘術」という手術方法を行っている。胃に加え横行結腸、 膵臓 ( すいぞう ) 、 脾臓 ( ひぞう ) といった胃の周囲の臓器も切除する。「合併症の可能性があることから膵臓は温存している」。手術後の治療として、抗がん剤のマイトマイシンを吸着させた活性炭を腹腔内に散布する。「治療の効果が上がる。他の薬を使うこともある」という。

 大阪医科大時代に携わったスキルス胃がん患者の治療は、進行した病期で治療を受けてから、ほぼ十年をクリアした人々について書かれた「がん・奇跡のごとく」(中島みち著)で取り上げられた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年05月20日 更新)

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