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増える小さな赤ちゃん 体重2500グラム未満 妊婦の栄養摂取不十分? 成人後の健康に影響も

渡部晋一主任部長

「どんぐりの会」で遊ぶ子どもたち。後方では父母が医師から講義を受ける=2月21日、倉敷中央病院

 国内でこの30年、体重2500グラムを切って生まれる低出生体重児の割合が増えている。専門家は、妊娠中の母親の不必要な栄養コントロールなどによる体重不足がかかわっている可能性を指摘。影響は長期に及び、成人後の健康状態にも悪影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らしている。

 日本の低出生体重児の割合は、戦後最低だった一九七五年には新生児の5・1%だったが、二〇〇六年には9・6%にまで増加。経済協力開発機構(OECD)諸国の平均を大きく上回っている。

 新生児全体の平均体重も一九七五年ごろから減少傾向にあり、二〇〇六年までに約二百グラム減った。女児に限ると、二〇〇〇年代に入り三〇〇〇グラムを切る状態が続いている。

 「医療技術の進歩により、従来は救命できなかった早産の新生児も救えるようになった影響だ」との声がある一方、早稲田大胎生期エピジェネティック制御研究所の福岡秀興客員教授は「われわれが調べた範囲では、むしろ満期産で低出生体重児の発生が多い。妊婦の体重増加量が不十分なのではないか」と話す。

高まるリスク 

 低体重児は生まれた直後にも命が危険にさらされることがあるが、英国の疫学者デイビッド・バーカー氏が一九八六年に提唱した説によると、胎児期などに栄養の低い状態に置かれると大人になってからも生活習慣病になる原因が発生する。

 この説は、その後さまざまな疫学調査や動物実験で検証が進められた。現在では母体内で発育が遅れると将来、高血圧や心筋梗(こう)塞(そく)、2型糖尿病、骨粗しょう症などのリスクが高まる恐れがあることが分かってきた。

 「太りすぎは良くないが、よく言われる『小さく産んで大きく育てる』は、危険な考え方だ」と福岡さん。

7―12キロ太る 

 日本の二十代女性の四分の一はやせているといわれる。妊娠しても体重増加に神経質で必要な栄養を摂取しない人も多いという。

 国立保健医療科学院の滝本秀美母子保健室長らが、二〇〇三年に出産した妊産婦五千人を対象に行った調査では、妊娠期間中の体重増加は平均で十キロ弱。低出生体重児の割合が少なかった一九七〇年代の増加量は十一―十二キロで、明らかな減少傾向がみられた。

 妊娠前にやせた体格の女性が、妊娠後に体重が五キロ未満しか増えなかった場合、三分の一のケースで低出生体重児が生まれたといい、滝本室長は「妊娠中の適切な体重増加とともに、妊娠前の栄養状態を改善することも重要だ」と話す。

 この調査などを基に、厚生労働省が二〇〇六年にまとめたのが「妊産婦のための食生活指針」。肥満の人以外は妊娠中に七―十二キロは太ることが望ましいとしている。

 妊娠中の体重増加を支えるエネルギー摂取については、〇五年版の食事摂取基準が参考になる。十八―二十九歳の女性の場合、エネルギー摂取量は十六週ごろまでの妊娠初期で一日二千百キロカロリー。その後二十八週までの中期には二千三百キロカロリー、出産までは二千五百五十キロカロリーと増やしていくのが良いという。

倉敷中央病院 退院後のフォロー課題 2、3歳児対象 交流会で不安解消

 千グラム未満で生まれた赤ちゃんも医療の進歩で命を取り留めるようになったが、病院退院後も親は心と体の発達に不安が尽きない。倉敷中央病院(倉敷市美和)の渡部晋一・総合周産期母子医療センター主任部長は「サポートの仕組みが不十分。実際には発達の遅れがないのに悩んでいる親も多い」と指摘する。

 最重症の新生児ケアを担う同センターでは、千五百グラム未満の極低出生体重児が年七十人前後誕生。その経験から「千グラム以上なら、ほぼ知能に不安はない」と渡部主任部長。千グラム未満の場合は知能に加え弱視、難聴、てんかん、発達障害の検査を行うが、「問題が見つかるのは四、五人に一人」という。

 また、満期産なのに低出生体重の赤ちゃんは低身長の恐れがあるが、成長ホルモンを注射する治療に昨年秋、公的医療保険が適用され、経済的にも治療を受けやすくなった。

 問題は、正常に発達しているのに幼稚園入園や小学校入学時になり「他の子と比べ落ち着きがない」「友達の輪に入れない」など不安を訴える親が増えていること。このため、同病院は九歳までのフォローアップ外来とともに、同センターを巣立った極低出生体重の二、三歳児とその親を対象に交流会「どんぐりの会」を一九九七年から続けている。

 四月から一年間、隔月で開く同会には毎回、二十組前後の親子が参加。医師や看護師、院内の保育所保育士らが、遊びを通じ子どもの発達を促したり、親の相談に応じている。

 本年度参加した多田香織さん(30)=井原市=は「地域の育児相談では小さな子の情報は少ない。この会で医師や同じ立場の親の声を聞け助かった」と振り返る。

 「低出生体重児は親が極端な過保護になるなど親子関係も問題を生じがち。だが、これまでの医療は子どもだけが対象で、こうした問題の背景にある親の不安解消は後回しだった」と渡部主任部長。同会の取り組みが親の意識も向上させる感触を得ており「活動がもっと広がってほしい」と期待している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年03月09日 更新)

タグ: お産倉敷中央病院

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