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広がるボツリヌス療法 眼瞼・片側顔面けいれん、痙性斜頸が対象 筋肉緩めて症状軽減

眼瞼けいれんの患者にボツリヌス毒素製剤を注射する岡山大病院の林医師

 食中毒の原因となるボツリヌス菌。その毒素を逆に利用したボツリヌス療法が近年広まっている。目の周りの筋肉が過度に収縮する眼瞼(がんけん)けいれんなど三つの病気が対象。微量の毒素を注射して筋肉を緩め、症状を軽減する。国内で使えるようになった1997年以降、治療を受けたのは岡山県約900人、広島県約1000人、香川県約400人。大きな成果を挙げている。

 岡山市の七十代女性は四年前、目に違和感を感じるようになった。症状は次第に悪化、明るい場所ではまぶしくて目を開けていられない。屋外を歩いていて人や物にぶつかったこともあった。

 知人の紹介で昨夏、岡山大病院(岡山市鹿田町)で受診。眼瞼けいれんと診断された。ボツリヌス療法を受け症状は治まった。「効果が続くのは二、三カ月だが、その間は楽になり、思うように外出もできる」と喜んでいる。

 同病院は昨年六月、神経内科にボツリヌス外来を開設。現在、岡山、広島県内の四十~七十代の約四十人が治療を受けている。担当する林健医師は「患者のADL(日常生活動作能力)の低下は著しく、そのつらさを軽減する意義は大きい」と強調する。

 ボツリヌス菌は生物化学兵器にも使われ、毒素には強力な筋肉の弛緩(しかん)作用がある。ボツリヌス療法はそれを利用し、毒素を薄めて安全な量にした製剤をけいれん部位と周辺の十カ所前後に注射して症状を緩和させる。毒物だけに管理は厳しく、行えるのは製薬会社の講習を受けた医師だけ。岡山県約二十、広島県約三十、香川県約十の医療機関が実施している。

 治療対象になる疾患は、眼瞼けいれんのほか、首や肩の筋肉が異常に収縮し頭が傾くなど不自然な姿勢になる痙性斜頸(けいせいしゃけい)と、顔の片側の筋肉がけいれんし、症状が進むと表情がゆがんでしまう片側顔面けいれん。眼瞼けいれんと痙性斜頸は原因不明、片側顔面けいれんは顔面神経が血管に圧迫され起きる。

 同療法は一九九七年に眼瞼けいれん、二〇〇〇年に片側顔面けいれん、〇一年に痙性斜頸の治療として公的医療保険が適用された。以前は別の薬などで治療されていたが、同療法に比べると効果は少なかったという。岡山県内のこれまでの治療実績は、約五百人が眼瞼けいれん、約三百人が片側顔面けいれん、約百人が痙性斜頸だった。

 同県内の医療機関で最多の約八十人に治療を行っている河原眼科クリニック(岡山市本町)の河原正明院長は「片側顔面けいれんはほぼ全員、眼瞼けいれんは八割の患者に効果があった」と語る。この二つに比べ、痙性斜頸はやや効きにくいとされる。

 ただ、ボツリヌス療法では根治できるのでなく、症状を和らげるだけなので、三カ月に一回程度注射を続ける必要がある。注射一回が三割の自己負担分で約三万円かかる。河原院長は「ボツリヌスの名前の怖さや経済的負担から治療を受けるかどうか迷う患者もいると思う。まずは相談してほしい」と話している。

メモ

 ボツリヌス療法を実施している医療機関は「眼瞼・顔面けいれん/痙性斜頸電話情報センター」(0120―611―094)で紹介している。時間は平日午前9時~午後5時。岡山大病院のボツリヌス外来は毎週水曜日午前、神経内科に設けられている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年10月29日 更新)

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