文字 

夜間・休日の小児救急 軽症殺到 医師手いっぱい 岡山県内

熱性けいれんで運ばれた子どもを治療する医師ら。時間外の救急外来は重症と軽症の患者が入り交じっている=国立病院機構岡山医療センター

梶谷喬理事

 岡山県内で重症患者を扱う救急病院の時間外診療に、特に軽症の子どもたちが目立つ。医師や看護師が準夜間帯に受け付ける県の「小児救急医療電話相談」の利用者も急増している。核家族化や共働きの増加でアドバイスを受ける人が身近にいなかったり、昼間の受診が難しい環境が背景にある。小児救急の課題を探った。

止まらぬ流れと大きな地域格差 県も改善向け再生計画

 24時間、365日、小児科医が常駐する国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区田益)。17日午後7時すぎ、小児救急外来に熱性けいれんの乳児が救急車で運ばれてきた。数分後、転落事故で後頭部を強打した8歳の子どもが到着、小児科医の判断で脳外科に回った。

 軽症患者の診察中に急患が入るのは日常茶飯事。赤穂市など県外からも運ばれる。久保俊英小児科主任医長(51)は「来院した順番通りに診察できない。大切なのは一刻を争う重症患者を見逃さないこと」。

 医師は25人。病棟100床も担当し、夜間の当直医は毎日5人体制だ。時間外(休日と午後5時~午前8時半)に来院する子どもは1日平均40人、多い日は100人を超える。当直後に引き続き診察をすることもある。

     ◇ 

 同岡山医療センターの時間外を過去3年間に受診した15歳未満は、年1万2千~1万5千人。このうち「重症の目安となる」(同センター)入院を要した患者は7・6~8・5%にすぎない。

 岡山県が小児救急支援病院に指定する同センターを含む5病院のうち、岡山赤十字病院(同青江)の入院は4・3~5・0%、倉敷中央病院(倉敷市美和)は同5・2~5・8%。

 共働きなどで昼間に身近な診療所などで受診できなかったり、夜間に調子が悪くなっても核家族化で相談相手がいないことなどから、救急病院の受診が増えている。

 この日深夜、吐いた4歳の娘を岡山医療センターに連れてきた岡山市内の男性(38)は「大病院は安心。重症の病気でないことが分かって良かった」とホッとした様子だった。

 県医療対策協議会(小児医療対策部会)委員の青山興司同センター院長は「医師がささいなけがや病気と思っても、親にとっては子の緊急事態。時間外に受診する流れを止めるのは難しい」と話す。

     ◇ 

 「時間外診療はどこも手いっぱい。特に小児科医が少ない県北は厳しい状態が続いている」と県保健福祉部=図参照。県内の小児科医は265人(2008年調査)で、前回調査(06年、248人)より増加。15歳未満の1万人当たり9・8人で、全国平均(8・9人)を上回るが、岡山市を含む県南東部保健医療圏が12・1人なのに対し、真庭保健医療圏は1・5人と大きな南北格差がある。

 新見市の昨年の救急搬送(1398人)のうち、15歳未満の45人が岡山、倉敷市などの病院に救急車やドクターヘリで搬送された。

 新見市の医療環境改善を訴え、約1万4000人の署名を集めた市民組織「新見市の小児医療を考える会」の宮脇克志さん(34)は「子どもを車に乗せ何十キロも運転する人もいる。県南は身近に診てくれる病院があるだけでも恵まれている」と話す。

 県は県北の医療環境改善を狙いに「地域医療再生計画」案をまとめ、10年度当初予算案に初年度経費約17億3500万円を盛り込んだ。13年度までに高梁・新見・真庭地域で小児科医を含む医師を、現状より2割増、津山・英田地域は1割増にする目標を掲げる。

 しかし、短期に小児科医を確保するのは困難。このため、地域の内科医を対象にした医療研修、住民に正しい救急利用や小児救急のかかり方の普及など計画している。


開業医ら連携 電話相談や診療所 病院負担軽減へ一役

 相談相手もなく不安に思う保護者らを支援する岡山県の「小児救急医療電話相談(#8000)」。開業医と勤務医、看護師が連携し、“0・5次救急”とも呼ばれる。

 県が県医師会に運営を委託して04年度に開設した。相談件数は年々うなぎのぼり。09年度は12月末で5571件と、08年度(4482件)を大きく上回る=グラフ参照。

 当初は休日のみだったが、07年5月以降は365日体制で準夜間帯(平日午後7時~11時、土日祝日午後6時~11時)に、開業医30人を含む医師約40人と看護師が輪番で対応している。

 08年度の相談の約7割が発熱、嘔吐(おうと)、下痢など。「医療機関へ行くよう勧めた」のは15・3%で、不安解消に役立っている。

 また、岡山市医師会は勤務医と開業医が協力し、休日夜間急患診療所(同市北区東中央町、市民病院別館)を運営。小児科は休日と年中無休で準夜間帯(午後8時~10時半)に診療している。

 小児科医45人(うち開業医は約30人)が輪番で担当。当直医は2人。同医師会は「救急病院が本来の救急業務に十分な時間をかけられるよう、開業医と勤務医が補って地域の小児医療を守りたい」とする。

 それでも減らない救急の患者数を抑制するため、軽症患者から医療費以外に特別料金(時間外選定療養費)を徴収する制度が、効果を上げている事例がある。

 08年度に3150円の徴収(年齢制限なし)を始めた徳島赤十字病院は、小児科時間外受診者は約9000人で07年度(約2万100人)から半数以上減ったという。岡山赤十字病院は08年11月から取り入れたが、6歳未満が対象外で「時間外の小児救急患者数は変化がない」(総務課)という。

 岡山市医師会の樋口譲二理事(小児科担当)は「病院が本当に医師の負担を軽くしたいのなら、時間外の一律有料化を検討してもいいのではないか」と提案する。

 一方、倉敷中央病院(倉敷市美和)の新垣義夫小児科主任部長は「患者の診療制限につながるのでは」と慎重な姿勢。患者が一つの病院に集中して、重症患者の治療に支障が出ないようにするため「他の病院に振り分ける機能を持ったネットワークが必要ではないか」と提案する。


岡山県医師会・梶谷喬理事に聞く 親の悩みや不安解消

 小児救急医療電話相談を自らも担当する岡山県医師会の梶谷喬理事(県小児科医会顧問)に聞いた。

 ―休日、夜間の受診が増えている理由は。

 核家族化や共働きの増加など、生活スタイルの変化が大きい。ただ、安易に救急病院を受診する人も増えているように思う。

 ―小児救急医療電話相談はここ数年急増している。

 相談対象は3歳未満が6割以上を占め、9割近くが軽症だった。保護者の悩みや不安解消につながり、急を要する場合は別だが、病院に行くべきかどうか迷っている人には大いに役立っている。

 ―午後11時以後の深夜帯の受け付けなどに課題もあるが。

 深夜帯は医師の確保が難しい。それよりも電話回線を増やし、現在の準夜間帯(午後11時まで)の担当を2人体制にした方が効果的だ。利用者がさらに増えれば、時間外診療を行う病院の負担軽減につながるはずだ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年02月28日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ