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臓器移植の行方 改正A案衆院可決 (上) 岡山労災病院 清水信義院長に聞く

清水信義院長

 脳死を人の死とし、15歳未満の子どもの臓器提供を可能にする臓器移植法改正A案が衆院で可決された。法案の行方は、今後の参院での審議や衆院解散なども絡みなお不透明だが、岡山県内の移植関係者や脳死が発生する現場の救急医、生命倫理学者の3人に、A案可決に対する意見や課題などを聞いた。

 ―岡山大で脳死肺移植を手掛け、日本移植学会理事も務めた立場から、A案の可決をどうとらえているか。

 「本来であれば(1997年の)臓器移植法施行から3年後に見直すことになっていたが、丸12年もかかった。この間、社会的な関心が薄れたり、議論が後退するのではないかという不安もあった中で、移植の恩恵を受けた人や支援者らの粘り強い働き掛けが実を結んだと考えている。ただ、法改正が決まったわけではなく、手放しで喜べる状況ではない。参院でも前向きな審議が行われると信じている」

 ―国内の臓器移植は生体からが主流となっている。

 「移植が一般的な医療として認められている欧米などは脳死からの臓器提供が圧倒的に多く、臓器がどうしてもない場合の補完的な手段として生体からの移植が行われている。健康な臓器提供者にメスを入れることは本来、望ましくない」

 ―世界保健機関(WHO)の指針改定方針など海外での移植自粛を求める世界的な流れで、事態が急に動いた感もある。

 「現行法では15歳未満は臓器提供者になれず、移植が必要な子どもたちは海外で手術を受けるしかなかったため、一つの契機になったと言える。だが、移植を待っている人の多くは成人という現状にあって、現行法では脳死からの臓器提供は全国で81例にとどまっている。脳死臓器移植が増え、多くの国民が移植医療の恩恵を受けることができる制度になることが望まれる」

 ―一方で、脳死を人の死とすることや、脳死移植に反対の立場を取る人は依然多い。

 「社会全体が同じ意見の人ばかりであるはずはなく、『自分や家族の臓器を提供したくない』という考えがあって当然。第一義的には本人の意思を尊重すべきであり、臓器提供を拒否している人に何らかの圧力をかけることがあってはならない。『臓器提供は善意の行為』という社会的な風潮が強まり、国民の重圧にならないことを祈っている」

 ―仮にA案が成立したとして今後、どのような課題があるか。

 「ドナーカードの保持率は1割未満と極めて低い。国民一人一人が何らかの形で臓器提供の意思表示をしておくことが今まで以上に重要になる。大学病院や救命救急センターなど4種類に限られている脳死臓器提供が可能な施設の範囲を見直す必要が生じる可能性もある。医療者側としては、小児の脳死判定を厳密に行うことや移植手術が安心して受けられる体制づくりに向けた努力を積み重ねることで、医療に対する信頼性を確立していく必要があるだろう」


 しみず・のぶよし 岡山大医学部教授、同大病院長、同大副学長などを経て2008年4月から現職。専門は腫瘍(しゅよう)・胸部外科学。岡山大医学部卒。高梁市出身。69歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年06月20日 更新)

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