文字 

第20回 乳がん 川崎医科大付属病院乳腺甲状腺外科・園尾博司部長 「毎年検診」で発見早く 乳房温存術が手術の6割

 そのお・ひろし 1972年山口大医学部卒。徳島大医学部第2外科講師、川崎医科大助教授などを経て、96年から同大教授。日本乳癌(がん)学会理事長も務める。

皮下乳腺全摘

乳がん自己検診のやり方

 日本人女性の約20人に1人がかかる、といわれる乳がん。早期発見に向けた取り組みや治療の最前線について、川崎医科大付属病院(倉敷市松島)乳腺甲状腺外科の園尾博司部長(同大教授)に聞いた。

 ―乳がんは早期発見が大切と言われます。

 乳がんは誰もがかかる病気。患者の4分の3は自己発見です。ただ、定期検診で見つかるケースに比べて進行していることが多い。手で触って分かるようになるのは、がんが1センチ以上になってから。手で触るだけでは完全に早期のがんを見つけることはできません。1センチ以下で見つかれば、ほぼ完治します。ところが、2センチになると、1割ぐらいは亡くなってしまいます。

 岡山県内の乳がん検診の状況について調べたデータがあります。毎年検診を繰り返し受けている人と隔年の人を比べると、毎年の人は71%が早期がんで見つかっていますが、2年に1回では50%の人しか早期で見つけることができていません。また視触診だけだと、早期がんの発見率が45%なのに対して、マンモグラフィーを併用した場合は71%に向上します。

 岡山県では2000年から「岡山方式」として「毎年検診」を呼び掛けていますが、受診率は低迷しています。多少の費用がかかっても40歳以上の方には、マンモグラフィー検診を毎年、受けていただきたい。

 ―がんが見つかったら、外科手術を行うのですか。

 原則、外科手術です。現在、6割が乳房温存術、残りの4割が乳房切除術です。以前は乳房切除術の方が多かったのですが、2003年からは乳房温存術が主流になっています。両者の生存率は同じです。

 乳房を温存できるがんの大きさは、おおむね3センチまで。3センチは500円玉の大きさです。定期的にセルフチェックしていた人は平均2・1センチで見つかっています。たまに触る人と、まったく触っていない人はほぼ同じで、見つかった時の大きさは平均3・3センチ。つまり、この大きさでは乳房は残せません。普段から自分で意識して触ることが大切です。

 乳房を温存した場合、再発を防ぐために大事なことが二つあります。一つは顕微鏡的にがんをきちんと取りきること。切除する部分を3カ所ほど顕微鏡で見て、がんが広がっていないか確認しながら手術をします。

 もう一つは術後の放射線治療です。放射線治療は週5回、5週間続けるため、患者さんの負担が大きいことが課題です。遠方に住む人が毎日、通院するのは大変。そこで、最近は手術の時や術後に放射線を当てるなど、短期で行う方法も試みられています。

 また、がんが1センチ以上であれば薬物療法の対象になります。再発の可能性がゼロでなく、他の臓器への再発が怖いからです。ホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬剤の3種類あり、ホルモン剤だけの場合もあれば、ある程度進行していれば抗がん剤を併用します。もちろん、分子標的薬剤の適応があれば、三つとも併用することもあります。

 ―乳房の再建を望む患者は多いと思いますが。

 乳腺を全摘した場合、すべての医療機関で乳房の再建ができるわけではありません。以前は背中の筋肉を使って胸を膨らませていましたが、この手術は5〜6時間かかります。現在は、ティシュエキスパンダー(組織拡張器)を使う方法が一般的です。

 乳腺を全部切除した後、大胸筋の下にティシュエキスパンダーという袋を入れ、生理食塩水を少しずつ注入していきます。半年ほどかけて皮膚を伸ばして、乳房の形を整えてから、シリコンに入れ替える手術をします。この入れ替え手術は保険適用にならず、自己負担で約80万円かかることがネックです。

 ―乳がん手術では腕が腫れるといった後遺症があると聞きます。

 乳がん手術でリンパ節を切除した人の1〜2割に、腕の腫れ(リンパ浮腫)が起こることがあります。がんが最初に入るリンパ節だけを取り、顕微鏡で調べ、転移がなければそれ以上取らないことで、この症状を避けることができます。「センチネルリンパ節生検」と呼ばれる検査で、色素とか放射能を使ってがんを探します。今年の4月に保険適用になりました。

 ―患者のQOL(生活の質)向上につながる支援も欠かせませんね。

 患者さんの心のケアは非常に大切です。当科の患者さんを中心に1985年、患者の会ができ、それ以来ずっと顧問をしています。活動としては、年1回のオープン参加の講演会、年1回の親睦(しんぼく)旅行が25年間も続いています。5年前からは、他の病院で手術した患者さんにも参加してもらい、3カ月に1回、悩み相談会を開いています。相談は治療のことや薬のことなど、何でもいいのです。毎回、20〜30人集まっています。


病のあらまし


 乳がんは乳房の乳管(乳が通る管)に発生する。罹患(りかん)率は30歳代から高くなり、40〜50歳代がピーク。近年は60歳以上の高齢者で増加が目立つ。まれだが、男性の乳がんもある。

 乳がんの発症には女性ホルモンの一つ「エストロゲン」が関係する。エストロゲンは、乳房の発達などに関係し、がん細胞を増殖させる。

 リスク要因として、初経が早い▽出産歴がない▽高齢での初産▽授乳歴がない▽閉経が遅い▽家族に乳がん患者がいる▽閉経後の肥満―などが挙げられる。

 早期発見が大切で、自己検診と定期検診が欠かせない。一般的に乳房のしこりが1センチぐらいになると、自分で注意深く触診すれば分かるようになる。

 セルフチェックは定期的に行い、月経が終わってから1週間前後の乳房が張っていない時期がよい。人さし指から薬指まで3本の指をそろえ、指の腹で2〜3センチの円を描きながら乳房全体をくまなく、ゆっくりと調べる。左右それぞれ3分程度かけて、じっくりと行う。

 定期検診の際、視触診に加え、マンモグラフィーを併用することで早期発見の可能性は一段と高くなる。乳房を挟んで圧迫し、エックス線撮影する検査で、触診では見つからない小さながんを見つけることができる。

 国の指針では40歳以上は2年に1度、視触診とマンモグラフィーを併用すべきとするが、岡山県は独自に30歳以上に視触診、40歳以上はマンモグラフィー併用を毎年実施する「岡山方式」を打ち出している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年06月14日 更新)

ページトップへ

ページトップへ