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第22回 悪性リンパ腫 岡山労災病院 矢野朋文・第2内科部長 予後見通し薬剤選択 副作用対策も重要な柱

 やの・ともふみ 1990年岡山大医学部卒。四国がんセンター、岡山大病院など経て97年に岡山労災病院に入り、2005年10月から現職。愛媛県出身。44歳。

 全身疾患である悪性リンパ腫の治療は複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法が中心になるが、長期に及べば副作用対策も気にかかる。岡山労災病院(岡山市南区築港緑町)の矢野朋文第2内科部長(血液内科)に、治療の実際と薬と付き合っていくポイントを聞いた。

 ―一口に悪性リンパ腫と言っても30種類を超えるタイプ(組織型)があり、予想される増殖のスピード(悪性度)や病変の広がり(病期)などによっても治療方針が違ってくると聞きます。何ともやっかいな病気ですね。

 悪性リンパ腫はホジキンリンパ腫(HL)と非ホジキンリンパ腫(NHL)に大別されますが、首のリンパ節から脇の下、両肺の間にある縦隔(じゅうかく)…と順番に病巣が広がっていくHLは、最も治療後の経過(予後)の良いグループに入ります。

 手ごわいのが日本人に圧倒的に多い、実に95%までを占めるNHLです。病巣がリンパ節以外から発生することも多く、腸閉塞(へいそく)や黄疸(おうだん)などで見つかることがあります。細胞の性質によってB細胞型とT・NK細胞型に分かれますが、それぞれ数多くのタイプがあるため、治療は一筋縄ではいきません。

 腫瘍(しゅよう)が週単位で進行していくのか月単位、年単位なのかといった悪性度や、病変が一つのリンパ節領域にとどまっているのか広がっているのかといった病期によっても使用する薬剤や治療期間が変わってきます。

 ―つまりは治りやすいタイプとそうではないのがある、と。

 HLでは4種類の抗がん剤を組み合わせた「ABVD療法」が標準的な治療として確立しており、7~8割の方が長期生存が可能になっています。

 一方のNHLは標準的治療が確立しているタイプは限られています。一般的にT・NK細胞型よりも患者数の多いB細胞型のほうが治療薬の進歩もあって予後は良いのですが、HLに比べると残念ながら治りにくいと言わざるを得ません。

 ―治療の流れを具体的に教えてください。

 適切な治療は、予後も見通した的確な診断から始まります。

 まず、腫れたリンパ節や病気に冒された臓器の一部を採取して組織型を確定する生検が欠かせません。

 それと並行して病期をチェックするためにCT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像装置)などの画像検査をはじめ、内視鏡検査や骨髄検査も行います。

 これらの結果に、患者さんの年齢や血液検査値、全身状態などの予後を予想する情報を加味して抗がん剤の組み合わせや治療期間を決めていきます。

 ここでの選択が予後に多大な影響を与えるため、細心の注意が必要です。

 ―方針が決まれば、いよいよ薬剤の投与が始まります。

 日本人のリンパ腫の半数近くを占める「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」を例にすると、3種類の抗がん剤とステロイドホルモンを組み合わせた「CHOP療法」に、分子標的治療薬であるリツキサン(一般名・リツキシマブ)を併用した「R―CHOP療法」が標準的な治療です。

 1回当たりの必要量は患者さん個人の体表面積から計算します。

 病変の広がりが一部にとどまる限局期では3週間ごとに3回繰り返した後で病変部に放射線を当てるのが一般的ですが、病変が扁桃(へんとう)腺や首のリンパ節にあるときは粘膜障害が出やすいため、化学療法だけのこともあります。

 通常、病変が広がっている進行期と判断された場合はR―CHOPを3週間ごとに6~8回行います。予後が悪いと予想される場合は、抗がん剤を大量に追加して再発を減らす方法があります。

 初回の投与は慎重を期すため入院治療で副作用やリツキサンによる免疫反応の程度を観察しますが、2回目以降は特に大きな問題がなければ外来でも大丈夫です。

 ―「リツキサン」はどんな薬なのですか。

 悪性リンパ腫全体の7~8割を占めるB細胞リンパ腫が持っている特定のタンパク質だけに結合し、免疫の力でがん細胞を破壊していく抗体薬です。

 従来の抗がん剤に比べて正常細胞への影響が少ないのが特長で、抗がん剤と併用することで治療成績が明らかに良くなりました。

 ―とはいえ、最長で半年間に及ぶ投与では副作用の影響が気になります。

 ご自身で感じる副作用には吐き気や便秘などの消化器症状、口内炎などの粘膜障害があり、長期的には脱毛や指先、足底のしびれがあります。しびれの防止は難しいので程度によっては原因薬剤を中止することもあります。副作用がつらいときは、遠慮なく私たちにお伝えください。

 化学療法後には骨髄での正常な造血が抑制されるため、白血球や血小板の減少、貧血なども起こりますが、悪性リンパ腫は抗がん剤の投与量が予後に直接影響する病気ですから、できる限り計画通りに治療していくことが大切なのです。

 最近では消化器症状の予防や白血球の急減に伴う感染症の予防などの支持療法も進歩しており、化学療法を継続していく上での重要な柱になっています。

 悪性リンパ腫の治療はまさにケース・バイ・ケース。専門医とじっくり相談した上で、根気強く取り組んでいってほしいですね。


病のあらまし


 白血球の一つで、病原菌やウイルスなどの侵入から体を守るリンパ球ががん化し、異常に増殖していく病気。その結果、腫瘍(しゅよう)ができたり、組織障害を引き起こしたりする。

 「血液のがん」と言われる腫瘍で、他に白血病や多発性骨髄腫などがあるが、悪性リンパ腫が全体の半分を超える。罹患(りかん)者は増加傾向にあり、頻度は白血病の約2倍。年間に1万人程度が新たに発症しているとみられる。

 原因がよく分かっていない上、首回りや脇の下、脚の付け根など体中に張り巡らされたリンパ節はもとより、あらゆる臓器から発症する可能性がある。

 多種多様なタイプ(表【A】参照)があり、悪性度(表【B】)や病期(表【C】)によって症状も治療法も予後も異なってくる。全身疾患のため、手術による外科的な腫瘍の切除が柱となる他の多くのがんと違って化学療法が主流となり、限局期には放射線療法を併用することもある。

 一般的に抗がん剤が効きやすく、HLでは標準的治療をきちんと受ければ7~8割が治り、NHLでもおおむね半数以上が長期生存が可能になっている。

 感受性の高い治療薬の開発もめざましく、中でも正常細胞への影響が少なく、特定の目標だけを集中的に攻撃する分子標的薬(抗CD20抗体)の出現は治療効果を大きくアップさせた。

 最近では放射性物質に抗CD20抗体をくっつけた薬剤が導入され、他に比べて抗がん剤が効きにくかった低悪性度群のろほう性リンパ腫や再発したマントル細胞リンパ腫などの治療に使えるようになった。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年07月05日 更新)

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