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(1)人工関節手術 川崎医大病院整形外科(関節) 三谷 茂教授(47) 難波良文講師(42)

手術が終わり、ほっと一息。談笑する三谷教授(右)と難波講師

痛み少なく回復早いMIS
国内トップクラスの実績


 くりくり頭が二つ。宇宙服のような感染防止の手術着からのぞく。まぁるい柔和な顔。気取らない。三谷はサッカー、難波は柔道を楽しむスポーツマン。あっさりして男っぽい。この二人、人工関節手術では国内トップクラスの実績を持つ。

 1994年から三谷は股(こ)関節の人工関節手術を始め、1400例を超えた。若い医師の執刀を指導した手術を含めると2000例に及ぶ。2003年、中四国で初めてMIS(最小侵襲手術)を始めた。それまで患者の最大の悩みは術後1週間の痛み。メスで切られた筋肉は動くと激痛があった。前は25センチ切り開き、筋肉、場合によっては腱(けん)にもメスを入れたが、今は8〜10センチにし筋肉、腱はできるだけ傷つけない手術法。「2カ月の入院が2〜3週間になり、痛みが少なく、機能回復が早い。患者に優しい手術です」と三谷は言う。

 70代女性の右股関節の手術―。股関節の位置を確認しメスで切り開いた。指で筋肉を押し寄せ、骨盤と大腿(だいたい)骨の一番上を露出させた。8センチ立方の穴、手術範囲の一部しか見えないため、高い技術と経験がないとできない。正常では大腿骨骨頭がまぁるく骨盤の臼蓋(きゅうがい)に組み込まれ股関節となっている。両方の骨表面は5ミリほどの軟骨に覆われクッションの役目をしていたが、長年の体重の圧力ですり減り、骨同士が当たり、変形、痛みが出るようになった。三谷は目を凝らし両方の骨の変形部を確認。カンカーンとハンマーの音が響き、電動やすりで削った。ここまで8分。

 いよいよ人工関節の設置。ポリエチレンと合金製で重さ500グラム。骨盤の臼蓋に代わる直径5センチ半円のカップ、内側に軟骨の役目をする超高分子ポリエチレンのライナーをはめ込む。大腿骨骨頭の代わりにセラミック製のボール、動きを支える柱となるステム(長さ12センチ)を大腿骨の中に埋め込む。角度に誤差があるとズレが生じ、脱臼の原因になり、作業はすべてナビゲーションで確認する。

 40分で手術は終わった。出血量80CC。正確で速く、出血の少ない手術結果が三谷の手際の良さを表している。平均手術時間約60分。「手術がうまい。スキルと突発的なことが起きても動じない沈着冷静さを持つ」。手の外科で知られる岡山大整形外科の先輩、橋詰博行笠岡第一病院長の評。心技体ともに充実。今が旬。

 難波は6年後輩。04年、MIS手術が始まって1年後、三谷の手術を自分のものにするため、岡山大病院に通った。10例ほど、二人三脚、師弟で手術をし、若い難波は三谷に手術法を伝授された。米国のトレーニングにも参加、腕を磨いた。06年、岡山労災病院人工関節センター長に就任、独り立ちした。人工関節症例数07年254例。08年310例、09年322例(股関節164、膝(ひざ)158)。

 一途な難波は猛烈に走り、膝の手術数では師を追い越し、人工関節1200例を突破した。毎日、膝、股関節を切開し、変形した骨を削り、人工関節を埋め込んだ。関節の構造を頭にたたき込み、3年間は一意専心、手術漬けの生活。修行僧のような厳しい目になり、一つのことを繰り返すことで熟練の域に達していった。「これまでほとんど95点以上取れていると思う。すべての手術で100点を目指しています」。難波の手術は「基本に忠実かつ丁寧」と三谷は評価する。「手術の翌日、患者が歩くのを見るとうれしくて」。

 ダンディズムの三谷、熱中派の難波。関節治療には小児の股関節脱臼から入った三谷、リウマチから入った難波。小児から老人まで関節治療では自信を持つ。頭髪を短く切り、ひたすら手術に打ち込む師弟。「まだ、まだです」と自戒する。自らの心技を充実させ、医のちからで関節をよみがえらせようと手術場に立つ。(敬称略)

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 みたに・しげる 清風南海高、岡山大医学部、同大学院卒。岡山大学病院、岡山労災病院、旭川療育園を経て2005年岡山大学病院講師、06年岡山大学大学院助教授、10年川崎医大整形外科教授。

 趣味 サッカー、スポーツ観戦、パソコン。

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 なんば・よしふみ 朝日高、岡山大医学部、同大学院卒。岡山済生会総合病院などを経て、1999年から岡山労災病院。2010年川崎医大整形外科講師。

 趣味 体力維持のための自転車通勤(片道40分)、家庭菜園で大根、トマト、キュウリを栽培。

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 デメリット 感染に弱い。人工物を入れるので0.1〜0.5%で感染症を発症し再手術が必要になる。人工膝の可動範囲が120度までなので正座ができない。手術後、ゴルフ、日本舞踊などを再開する人もいる。耐用年数は30年と言われ、年齢によっては再置換手術が行われるケースもある。金属アレルギーによる拒絶反応が心配される時は手術前にテストをする。

 手術適応 骨と骨の間でクッションの役目をする軟骨がなくなり、薬の治療でも痛みが強い場合は人工関節手術の対象になる。毎日、痛み止めを使用する。夜間の痛みで不眠になる。痛みで外出がおっくうになる。この3点で一つでも該当すると医師は手術の対象と考えるようになる。年齢、心臓病、糖尿病など他の疾患など手術に耐えうる条件を勘案、具体的な検討を始める。

 外来予約 三谷、難波医師の手術は診察をした結果決まる。診察は電話で予約できる。予約センター電話086―464―1548。平日は午前8時半〜午後5時、土曜は午後0時半まで受け付ける。

川崎医大病院
倉敷市松島577
電話
086―462―1111
メールアドレス
hsyomu@med.kawasaki−m.ac.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年08月02日 更新)

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